続・最後の男

深冬 芽以

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13 軋む心

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 さらに最悪なことに、婚約者は主任から荻野さんの名前と会社を聞き出し、抗議の電話をしてきた。

 怒り狂った益井課長は、営業部一同の面前で荻野さんに事実確認し、泣かせ、私を恫喝した。

「堀藤さん。社に戻って伝えてください」

 私は伝書鳩の役目を仰せつかり、そそくさとタクシーで来た道を帰った。

 奥山商事からのお言葉は、こうだ。

 荻野さん本人と然るべき責任者が謝罪に赴くこと。

 基本中の基本過ぎて、情けなかった。

 なのに、益井課長は私がこの件を収拾できなかったことに怒り心頭。

 私としては、私の謝罪なんかでどうにかできると思っていた課長の考えが理解できなかった。

「明日、荻野さんを連れて謝罪に行きなさい」

 正気か!? と疑った。

 どうあっても、自ら謝罪に行く気はないようだ。

「益井課長。私は、奥山商事が言うところの、然るべき責任者、ではありません。担当者でもある課長が――」

「私は行かないわよ! どうして荻野さんの尻拭いをしなきゃならないのよ。直属の部下でもないのに」

「担当者であり、肩書があるという理由では――」

「なりたくて担当者になったわけじゃないわよ」

 めちゃくちゃだ。

 課長がヒステリックになる気持ちも分からなくはない。二年前に、部下のセックススキャンダルで、智也が処分を受けた経緯は誰もが知っている。

 自分も責任を取らされて異動になるのではと、気が気ではないのだろう。

 だが、そんなことを言っている場合ではない。

「益井課長。明日とは言わずに、今すぐに荻野さんを呼んで謝罪に行くべきです。連絡が取れ次第、千堂課長にも――」

「堀藤さん!」

 風間さんに声をかけられ、振り向いた。同時に、益井課長にギンッと殺気を含むような鋭い視線を向けられ、風間さんが委縮した。

「お子さんの学校からお電話です」

「わかりました。ちょっと失礼します」

 私は課長と目も合わせずに、軽く会釈をしてそばのデスクの受話器を取った。



 真か亮が熱でも出したろうか。



「お電話代わりました、堀藤です」

『お仕事中にすみません、○○中の平岡ひらおかです』

 真の担任の先生だった。

「お世話になっています。何かありましたか?」

『真くんが体育の授業中に友達とぶつかって、足首を捻ってしまいまして。大分腫れが酷くて、保健教諭が骨折の可能性もあるからすぐに病院に行った方がいいと言っていまして』

「わかりました、すぐに迎えに行きます」

『あ、お母さんの職場からだとちょっと時間もあれですし、保健教諭と教頭が付き添いますので、病院に連れて行ってもいいでしょうか?』

「あ――、はい。すみません。お手数をおかけします」

『では、○○整形外科に行きます』

「わかりました。私もすぐに行きます」

 受話器を置くと同時に、私は自分の机に駆け寄り、早退届を殴り書いて、バッグを肩に掛けた。
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