続・最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
127 / 231
15 暴れだす感情 

しおりを挟む



『帰る前に、会えないか?』

 そう、智也からメッセージが届いたのは、土曜日の夜遅くだった。

 益井課長が釧路出張に行っていたことについて、私は何も聞かなかったし、智也も話さなかった。金曜の夜に、ただただ疲れた声で飛行機の時間を知らせてきただけ。

 土曜日は空港から直接実家に行くことになっていて、メッセージが届くまで音沙汰がなかった。

 智也に会うために仕組まれたような法事。何もないはずがなかった。

 翌日の日曜は、真の塾の定期テストで、私は札幌駅近くの会場まで送迎することになっていた。テストは三教科で、およそ三時間半。

 私は、真を会場に送ってから、マンションに行くことを伝えた。

 真の怪我は、智也に伝えていなかった。奥山商事からの誘いも。

 益井課長と何かなかったか。法事で何かなかったか。気になってはいたけれど、聞いていいものかと考えていた。

 何も考えずに、聞きたいことを聞きたい時に聞けたら、どんなに楽か。

 けれど、どうしてもタイミングというか相手の顔色を窺ってしまって、言えずじまいになってしまう。私の悪い癖だ。

 私は智也のマンションに近づくにつれ、落ち着かなくなっていた。

 この一週間で、色々なことがあり過ぎた。

 荻野さんの失態、益井課長とのバトル、真の怪我、謹慎、奥山商事からのヘッドハンティング、益井課長の釧路出張、智也の法事。

 一つ一つで考えてみれば、どうにか対処できる問題だが、いっぺんにとなると私も焦るし悩む。と言っても、目下の最大の悩みは益井課長一択だが。

 真の怪我は順調に回復しているし、奥山商事への返事も今日明日に差し迫ったものではない。となると、謹慎の原因となった益井課長と顔を合わせることが、今の私の悩みの九割。

 私はマンションの来客用スペースに車を停め、預かっている駐車証をダッシュボードの上に載せた。



 智也とはまたしばらく会えないんだし、今日はとにかく穏やかに見送ろう。



 私は大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。

 ドアを開けた途端、鼻の頭がヒヤッとした。

 突然、ザーッと小粒で落下速度の速い水滴が足元を濡らしだす。私は急いでマンションの自動ドアをくぐった。

 持っていた鍵でオートロックを解除し、エレベーターに乗り込む。ハンカチで軽く顔の水分を払った。

 智也がいることはわかっていたから、インターホンを鳴らした。四秒半でカチャリ、と内側から解錠された。ゆっくりとドアが開く。

「よ」

 顔を出した智也は、ひどく疲れていた。

「雨か?」

「うん。急に――」

 グイッと腕を掴まれ、私はドアの内側に引き寄せられ、転びかけた。が、転ばなかったのは、智也が抱きとめてくれたから。正確には、抱き寄せられた。

「智也?」

「悪かったな、急に」

「え? あ、ううん」

「どうしても、会いたくて……」

 か細い声で呟くと、智也は私の肩におでこを押し付けて、腰を強く抱いた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。 そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。 病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。 仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。 シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡ ***************************** ※他サイトでも同タイトルで公開しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以
恋愛
 事故で手足が不自由になった悠久《はるか》は、離婚して行き場を失くしていた義姉の楽《らく》を世話係として雇う。  派手で我儘な女王様タイプの妻・萌花《もか》とは正反対の地味で真面目で家庭的な楽は、悠久に高校時代の淡い恋を思い出させた。 「あなたの指、綺麗……」  忘れられずにいた昔の恋人と同じ言葉に、悠久は諦めていたリハビリに挑戦する。  一つ屋根の下で暮らすうちに惹かれ合う悠久と楽。  けれど、悠久には妻がいて、楽は義姉。 「二人で、遠くに行こうか……。きみが一緒なら、地獄でさえも楽園だから――」  二人の行く先に待っているのは、地獄か楽園か……。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

処理中です...