続・最後の男

深冬 芽以

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15 暴れだす感情 

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 法事で何かあったのは確か。

 その前に、益井課長とも何かあったのだろう。

 私は彼の背中に腕を回し、力を込めた。

 一、二分ほどそうして抱き合って、先に腕を解いたのは智也の方だった。恐らく、リビングのガラステーブルの上に置かれたスマホが、鳴ったから。着信音だ。けれど、智也は慌てることもなく、私のバッグを持ってサンダルを脱いだ。

「中、入ろう」

 着信音は鳴り続く。けれど、智也は出る気がないのか、聞こえていないようにすら思えるほど無視している。

「コーヒーでいいか?」と言い、キッチンに入る。

「智也、電話――」

「無視していい」

「けど――」

「どうせ母さんだ。着拒したけど繋がるってことは、父さんのからかけてんのか」

 不機嫌に、ため息交じりに言い捨てると、智也はバリスタのスイッチを入れて、キッチンから出て来た。テーブルの上のスマホを手に取り、再びため息をつく。脇の電源ボタンを長押しし、智也はスマホをソファに放り投げた。

「とも――」

「礼服着て見合いって、聞いたことあるか?」

「え――?」



 見合い……?



「そ」

 智也はキッチンに戻り、バリスタのボタンを押した。ガリガリガリッと噛み合わせの悪い歯車のような音を立てて、苦しそうにコーヒーを絞り出す。多分、残っているコーヒーが溶けかけて固まり、粉を落とす入口を塞いでいるのだろう。

 智也は小さく舌打ちして、ケトルを持ち上げた。

「法事に呼んでたんだよ。共同経営者とその娘。並んで坊さんのお経を聞いて、一緒に飯食って、ようやく解散て時に『じゃあ、後は二人で』だと」

 私はキュッと目を瞑った。



 智也の母親あの人は、どこまで智也を傷つけるのだろう。



 智也は両親に会いたくないと思っていた。それでも、自分を育ててくれたお祖母ちゃんの法事だからと、目を瞑って出席した。その彼の気持ちを踏みにじって、法事を見合いの場に変えた。それは、お祖母ちゃんを蔑ろにしているも同然。

 法事で顔を合わせた智也に、私と別れるように、見合いをするようにしつこく詰め寄るくらいを想像していた。だが、まさか、見合い相手を出席させるとは。

 夏子やご主人は知らされていたのだろうか。いや、きっと知らされていなかったろう。ゴールデンウィークの夏子の様子では、もう無理に智也と両親と和解させようとは思っていない。だったら、夏子やご主人も、さぞ驚いたろう。

「それは――」と言いかけて、ハッとした。

『酷いご両親だね』

 いくら智也が嫌っていても、他人の親だ。私が貶しては、智也も気分を害するはず。

「大変……だったね」

 代わりに繋げた言葉は、こんな陳腐なものだった。慰めにもならない。

 気の利いた言葉を言えない自分が、情けなくなった。

「――他人事みたいに言うんだな」
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