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16 俺を変えた女
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しおりを挟む彩……。
じん、ときた。
彩は昔の俺を知らない。なのに、益井とは違うと言い切る。
今まで、こんな風に絶対的に信じてくれる人は、姉さん以外にいなかった。
「あんたこそ、わかってない! 智也が私と違うってなら、それは変わったからよ。あんたのせいで腑抜けになったから! 昔は、あんな生ぬるい仕事をするような男じゃなかった。部下の為に田舎に異動するような優男じゃなかった! あんたが智也をダメにしたのよ――!!」
けれど、ここで黙ってしまうのも、彩。
責任を感じてしまうのも、彩。
俺はドアを押し開いた。
「自分でもわかってるなら、別れて。あんたは智也に相応しくない! あんたのせいで、智也は変わっちゃったんだから」
「――違う」
彩と益井の驚いた表情が俺に向けられた。が、彩は俺と目が合うなり逸らした。
ムッとしたし、悲しくもなった。昨日の別れ方を考えたら、気まずいのは当然だが。
すぐにでも彩に駆け寄りたかったが、まずは札幌本社に来た本来の目的を為すべきだ。
俺は、真っ直ぐに益井を見た。
かつて、愛した女。正確には、愛していると思っていた、女。
「俺が変わったとしたら、お前のせいだよ、環」
これは、元カレとしての言葉。
だから、敢えて名前で呼んだ。
彩と出会い、彩を愛して、あの頃の環への感情は、愛と呼ぶにはあまりにお粗末だったと、今の俺にはわかる。
「なんで……智也がここに……」
そう呟いた彼女の目から、一筋だけ涙がこぼれた。が、俺の心は全く動かされなかった。
「俺の管轄で悪さを企んだのは間違いだったな、益井課長」
これは、同僚としての言葉。
益井の表情が強張る。
「函館出張した時に、釧路には経営状態がひっ迫した工場が多いから、安価で取引できると聞いて目を付けたんだろうが、俺が気づかないとでも思ったか?」
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「倒産寸前の工場に、今回の仕事をこちらの言い値で引き受けてくれたら、次は三倍の単価で仕事を回す。そんなようなことを持ちかけたんだ。よくある駆け引きだし、約束を守れば問題はない。だけど、工場側だって馬鹿じゃない。いきなり現れた、しかも釧路支社の人間でもないお前の口約束を信じるわけにもいかず、俺んとこに確認の電話が入った」
益井の唇が小刻みに震え、両手は青筋が浮き出るほどきつく握られている。恐らく、全身冷や汗をかいているだろう。
「俺は、釧路支社の営業部長として、正式に抗議に来た」
部屋は、互いの呼吸も聞こえそうなほど静まり返った。
彩は心配そうに俺と益井を見ている。
彩のことだ。
自分がされたことは棚に上げて、俺が益井にやり過ぎないかを心配しているのかもしれない。そうだとしても、俺は手を緩める気などないが。
「工場には、明日にでも謝罪に行く。益井課長との話はなかったことにしてもらう。こちらの、それなりの損失はやむを得ないが、FSPの評判を落とすような事態は避けなければならないからな」
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