続・最後の男

深冬 芽以

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16 俺を変えた女

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 四本目の缶を空にした俺は、ソファに背を預け、ぼんやりと天井を見つめた。

 窓に打ちつける雨は激しさを増すばかり。



 彩はもう、帰ったかな。



 真の怪我について、聞かなかった。



 テストを受けに出られるんだから、大丈夫なんだろうけど。



 真が俺を嫌っているんじゃないかと思うことは、何度かあった。見定められているんだろうと、俺なりに正直に接してきたつもりだ。それなりに気も遣って。



 こんなんで、真の父親になれんのかな……。



 あんな言い合いをして、あんな別れ方をした直後なのに、なぜか彩と別れるなんて考えが、微塵も浮かばなかった。

 そんな自分に、笑えた。

 翌朝。

 俺は札幌本社の営業部長室にいた。

「嘘でしょ……」と、冨田が呟いた。

「嘘であって欲しいけどな」と、俺も呟いた。

 だが、俺と冨田の願いは虚しく散った。

 部屋に飛び込んで来た千堂から、事の次第を聞き、俺たち三人は小会議室へと急いだ。会議室の前では、谷がドアノブに手をかけようとしているところだった。が、俺の姿に驚き、ドアノブを回すことはしなかった。

「溝口部長?」

「話は後だ。お前はどうしてここにいる?」

「益井課長に用があったんですけど、怒鳴り声が聞こえて――」

 確かに、女の声が聞こえる。

「益井だろ」

「いえ、堀藤さんの」

「はっ――?」

 会議室の前で足を止めると、それが彩の声だと、確かにわかった。

「――今更何なのよ! 何がしたいのよ! 智也にちょっかいかけんな! 名前で呼ぶな!! 私が智也に相応しくないことくらい、わかってるわよ!」

 廊下にまで聞こえる、大声。

 昨日もそうだったが、ヒステリー気味だ。

「……」

「課長の挑発に、堀藤さんがキレちゃって……。流石にこれ以上はと思ったんですけど……」と、谷が苦笑い。

「奥山の話じゃないの?」と、冨田もドアの前で聞き耳を立てる。

「俺が出て来た時は、そうだったんですけど……」と、千堂も困惑気味。

「俺が聞いた限り、部長を巡って元カノと今カノが言い争ってるようですけど?」

「智也は――違い――」

 流石に、普通のトーンで話されると聞こえにくい。俺は静かにドアノブを回した。ゆっくりと、わずかにドアを押し開け、脚を挟んだ。

 彩と益井は互いに集中しているらしく、ドアが開いたことに気づかないようだった。

「――――せんよ。智也は女を誘惑して仕事を取るなんて面倒臭いことをするくらいなら、正面から乗り込んでいくと思います」



 何の話をしてる……?



「……なによ、偉そうに。昔の智也を知らないくせに。私と智也は似た者同士よ。恋愛なんかより仕事が大事なの。仕事は裏切らないもの。あの時、私は主任になれるかどうかが懸かってた。男は、勤続年数と共になあなあに出世していけるけど、女は違う。特に、営業はね。智也だって私と同じ立場なら、きっと――」

「智也は、違う。あなたのしたことに失望していたし、あなたに裏切られて傷ついてた。あなたと同じなら、出し抜かれたって悔しがっても、傷ついたりしない。あなたは、智也をわかってない」
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