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16 俺を変えた女
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コツコツ、と背後から女性の靴音が近づき、通り過ぎて、止まった。
冨田が俺と益井の間に立ち、振り返る。そして、正面から俺に頭を下げた。
「札幌本社の営業部長として、益井の不始末をお詫びします」
冨田に頭を下げさせたかったわけではないが、この状況では当然の対応だ。背後から、殺意にも似た視線を感じるが、千堂のそれは俺ではなく益井に向けられたものだと思おう。
「今回のことを社長に報告の後、益井の処分は追ってご連絡致します。申し訳ありませんが、工場側の対応をお願いします」
「わかりました」
上司である冨田が、自分の尻拭いの為に頭を下げてここまで言っているのに、当の益井は顔を背け、歯を食いしばっている。
仮に、益井が冨田の隣で頭を下げたら、違ったかもしれない。が、彼女はそうしなかった。
「それから――」
残念だ。
元カノであることを差し引いても、同期をこんな風に糾弾するなんて、本当はしたくない。
だが、益井は彩を傷つけた。
個人的に、それは到底許せなかった。
「益井課長の部下に対するモラルハラスメント、及びパワーハラスメントについては、コンプライアンス委員会に申し入れます」
「――――っ!?」
俺の言葉に、全員の視線が集中した。
俺が異動する原因となった騒動以来、上層部はスキャンダルを恐れて、コンプライアンス委員会を設置した。メンバーは、本社及び支社の部長職以上の管理職で、当事者が在籍する本社及び支社のメンバーはその案件に携わることが出来ない。情に流されないためだ。
それから二年。
コンプライアンス委員会が調査した案件は五件で、その調査対象全員が懲戒解雇されている。
実際、社内のモラハラやパワハラは今もなくなってはいない。だが、調査対象となればほぼ百パーセント懲戒解雇となってしまうため、訴える側も相応の覚悟が必要だし、訴えられる危険のある側もそれなりに自制する。
そして、コンプライアンス委員会に調査させるにあたって欠かせないのが、被害者本人からの申し出だ。
噂程度で、社員を懲戒解雇するわけにはいかないからだ。
ハッキリ言って、益井は彩が自分を訴えるなんて微塵も思っていないだろう。だからこそ、人の目も気にせずに怒鳴り散らせたはず。
「智也! それは――」
口火を切ったのは、彩。
「そこまでしなくても……」
予想通りの反応。
ようやく、正面から彩と目が合った。
「ここまでされて、これからも一緒に働けるか?」
彩は返事をしなかった。
それほど、追い詰められているという証拠だ。
「お前が訴えないなら、俺が訴える。俺へのセクハラで」
「セクハラ?」と聞いたのは、冨田。
「ああ。部下の前で必要以上のボディータッチと、あからさまな誘惑があった。必要なら部下が証言してくれることになっている」
「根回しできてるってこと……」と、冨田が項垂れた。
「冨田の顔に泥を塗る真似はしたくなかったが、これ以上、彩を益井のそばには置いておけない」
冨田が俺と益井の間に立ち、振り返る。そして、正面から俺に頭を下げた。
「札幌本社の営業部長として、益井の不始末をお詫びします」
冨田に頭を下げさせたかったわけではないが、この状況では当然の対応だ。背後から、殺意にも似た視線を感じるが、千堂のそれは俺ではなく益井に向けられたものだと思おう。
「今回のことを社長に報告の後、益井の処分は追ってご連絡致します。申し訳ありませんが、工場側の対応をお願いします」
「わかりました」
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「それから――」
残念だ。
元カノであることを差し引いても、同期をこんな風に糾弾するなんて、本当はしたくない。
だが、益井は彩を傷つけた。
個人的に、それは到底許せなかった。
「益井課長の部下に対するモラルハラスメント、及びパワーハラスメントについては、コンプライアンス委員会に申し入れます」
「――――っ!?」
俺の言葉に、全員の視線が集中した。
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