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16 俺を変えた女
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「恋人だった同僚が、函館支社長の口利きで見合いして、スピード結婚したのよ。で、早期退職した営業部長の後任に座った。営業部長が家庭の事情で早期退職することは誰にも知られていなかったから、彼が結婚して後任に選ばれたのは、支社長の贔屓だったって噂になったらしいわ。実際、函館支社は支社長と副支社長がいがみ合っているし。営業部長を味方につければ、事実上支社長の勝利、ってね。益井と同僚の関係は秘密にしていたようだけど、女性社員のほとんどは知っていたわ」
背後に立つ彩が、俺のジャケットの袖を掴んだ。立ち位置からして、誰も気づいていない。俺は背中で隠すようにして、彩の手を握った。
益井が恋人に裏切られたことに、同情しているのかもしれない。
もしかしたら、益井を許す気になっているのかもしれない。
彩らしいっちゃ、らしい。
だが、果たして本当にそうだろうか?
「部長になった元恋人と支社長に仙台支社に飛ばされそうになった益井は、副支社長に直談判して本社に来たの。本社から副支社長に協力する、って自ら申し出たそうよ。で、支社長を押し切って副支社長は益井を本社に異動させた。だから、焦ってたのよね? 早々に結果を出さなければ、後ろ盾がなくなってしまうもの」
「勝手すぎるだろ……」と、千堂が呟いた。
「自分を裏切った男への復讐なら、勝手にやってくれ。俺たちを巻き込むな。真面目に働いている人間はいい迷惑だ!」
「そうですね」と、谷も続く。
「いくら仕事がデキても、あなたのような上司は尊敬も出来ないし、ついて行く気になれません」
その時、谷のスマホが鳴り、彼は仕事に戻って行った。
「とにかく――」と冨田が力なく言った。
責任者としては、頭が痛いどころじゃないだろう。下手をすれば、冨田の監督責任も問われる。
「奥山商事への謝罪も含めて、対応を考え――」
「――益井課長」
強く握っていた俺の手をすり抜け、彩が横に並ぶ。
「来週の月曜日に、コンプライアンス委員会にあなたからのモラハラとパワハラを訴えます」
――彩!?
冨田も千堂も聞き間違いかと思ったのか、キョトンとした表情で彩を見ている。
益井も、だ。
「私も、あなたを許せない」
少し意外で、少し納得。
彩は優しいが、優しいだけの女じゃない。
その証拠に、彩の横顔に表情はなく、ただ真っ直ぐに益井を見ている。無表情というのは、時に何よりも怖い。
「来週の月曜日です」
それでも、やっぱり彩は優しい。
彩の一言で、益井には一週間の猶予が与えられた。
「堀藤さん、いいの? それで」と、冨田が聞く。
「はい」と、彩は頷いた。
「そう」と、冨田は少し呆れたように笑った。
それから、大きく息を吸い込み、背筋を伸ばして益井を見据えた。
「私はこれから社長に報告に行くわ」
冨田と視線を交えた益井の目に、迷いはなかった。
「私から、報告させてください」
そう言うと、益井は脇目も振らずに会議室を出て行った。
「溝口部長、工場の件についてはまた連絡します」
「わかりました」
「千堂課長は奥山商事にアポを取って」
「はい」
そう言うと、冨田は益井の後を追って出て行った。
背後に立つ彩が、俺のジャケットの袖を掴んだ。立ち位置からして、誰も気づいていない。俺は背中で隠すようにして、彩の手を握った。
益井が恋人に裏切られたことに、同情しているのかもしれない。
もしかしたら、益井を許す気になっているのかもしれない。
彩らしいっちゃ、らしい。
だが、果たして本当にそうだろうか?
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「勝手すぎるだろ……」と、千堂が呟いた。
「自分を裏切った男への復讐なら、勝手にやってくれ。俺たちを巻き込むな。真面目に働いている人間はいい迷惑だ!」
「そうですね」と、谷も続く。
「いくら仕事がデキても、あなたのような上司は尊敬も出来ないし、ついて行く気になれません」
その時、谷のスマホが鳴り、彼は仕事に戻って行った。
「とにかく――」と冨田が力なく言った。
責任者としては、頭が痛いどころじゃないだろう。下手をすれば、冨田の監督責任も問われる。
「奥山商事への謝罪も含めて、対応を考え――」
「――益井課長」
強く握っていた俺の手をすり抜け、彩が横に並ぶ。
「来週の月曜日に、コンプライアンス委員会にあなたからのモラハラとパワハラを訴えます」
――彩!?
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益井も、だ。
「私も、あなたを許せない」
少し意外で、少し納得。
彩は優しいが、優しいだけの女じゃない。
その証拠に、彩の横顔に表情はなく、ただ真っ直ぐに益井を見ている。無表情というのは、時に何よりも怖い。
「来週の月曜日です」
それでも、やっぱり彩は優しい。
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「はい」と、彩は頷いた。
「そう」と、冨田は少し呆れたように笑った。
それから、大きく息を吸い込み、背筋を伸ばして益井を見据えた。
「私はこれから社長に報告に行くわ」
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「私から、報告させてください」
そう言うと、益井は脇目も振らずに会議室を出て行った。
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そう言うと、冨田は益井の後を追って出て行った。
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