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16 俺を変えた女
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「あれで良かったんですか?」
ドアが締まり、千堂が聞いた。
「懲戒解雇になって当然だと思いますけど」
「あっさりクビになるより、頭を下げる方が堪えるんじゃないかと思って」
「そうかもしれないですけど……」とは言いながら、千堂は不満そう。
確かに、プライドの高い益井にとっては、問答無用でクビになるよりも、方々に頭を下げて謝罪する方が、よっぽど屈辱だろう。だが、千堂が不満に思うように、依願退職では退職金が支給される。それはそれで、いかがなものかと思う。
だが、彩がそうと決めたのなら、それでいいのだろう。
「しっかし、ナイスタイミングでしたね。格好良過ぎてムカつきます」と、今度は俺に言った。
「いや、遅かったろ。益井が奥山に行く前に止めたかったんだから」
「あーーー、そうか」
「流石に、益井がこんなに早く動くとは思わなかった」
なんだか、急にどっと疲れた。
俺はネクタイの結び目に人差し指を突っ込み、グイッと引いて緩めた。机の下に収まっている椅子を引っ張り出し、腰を下ろした。
「厳しいだろうが、なんとか奥山に契約解除を思い留まらせてくれ」
「はい。じゃ、失礼します」
冨田同様、千堂も忙しくなる。
奥山商事は一課の担当だ。謝罪の場に同席する。
小会議室には、俺と彩だけが取り残された。
やけに静かで、だから、彼女の声がよく響いた。
「ありがとう」
「ん?」
「来てくれて……」
俺を見ているが、目は合わない。
二人きりになると、昨日の気まずさがよみがえる。
「昨日は悪かった」
「ごめんなさい」
声が、重なる。
「え?」
三秒ほど、互いに顔を見合わせた。
で、俺が先に口を開いた。
「真の怪我はどんな具合だ?」
「――っ!」
どうして知っているのか、と不思議に思っているのが分かる。
「谷から聞いた」
「そ……っか。うん。土曜日にはギプスも取れそう」
「そうか」
「言わなくて、ごめんなさい」
「うん。ちょっと……、いや、かなり凹んだな」
「ごめんなさい」
彩が本当に申し訳なさそうに、肩を竦める。
「どうして言わなかった?」
「……それ……は……」
「まぁ、言っても俺にどうにかできることじゃないか」と言いながら、俺はガシガシと頭を掻いた。
「――違う! そんなんじゃ――」
沈黙。
俺は彩が話してくれるのを待った。
彼女は下っ腹の前で両手を握り、恐らくどう話そうかと迷っている。普段の軽口は、割と思ったことをポンポンというくせに、肝心なことは過ぎるほど言葉を選ぶ。そして、時には黙ってしまう。
「考え過ぎだ」
「え?」
「深く考えずに、言えよ」
「――っ! ……真が……怪我のことを智也に言って欲しくないようだったから……」
「……そうか」
「私、最近……智也のことばっかりで、子供たちのこと……ちゃんと出来てなかったんじゃないかって……思って……」
「……そうか」
子供にしたら、母親の関心が自分たち以外に向けられているのは面白くないだろう。ただでさえ、平日は仕事で家にいないのだから、月に一度とはいえ、土日も放っておかれるのは寂しいかもしれない。
それでも、俺は彩が、俺と一緒にいても子供たちを気にかけていることを知っている。
彩は決して、子供たちを蔑ろにはしていない。
だが、それは子供たちに伝わらなければ、意味がない。
「俺たちが思うより、真は複雑な心境なのかもしれないな」
ドアが締まり、千堂が聞いた。
「懲戒解雇になって当然だと思いますけど」
「あっさりクビになるより、頭を下げる方が堪えるんじゃないかと思って」
「そうかもしれないですけど……」とは言いながら、千堂は不満そう。
確かに、プライドの高い益井にとっては、問答無用でクビになるよりも、方々に頭を下げて謝罪する方が、よっぽど屈辱だろう。だが、千堂が不満に思うように、依願退職では退職金が支給される。それはそれで、いかがなものかと思う。
だが、彩がそうと決めたのなら、それでいいのだろう。
「しっかし、ナイスタイミングでしたね。格好良過ぎてムカつきます」と、今度は俺に言った。
「いや、遅かったろ。益井が奥山に行く前に止めたかったんだから」
「あーーー、そうか」
「流石に、益井がこんなに早く動くとは思わなかった」
なんだか、急にどっと疲れた。
俺はネクタイの結び目に人差し指を突っ込み、グイッと引いて緩めた。机の下に収まっている椅子を引っ張り出し、腰を下ろした。
「厳しいだろうが、なんとか奥山に契約解除を思い留まらせてくれ」
「はい。じゃ、失礼します」
冨田同様、千堂も忙しくなる。
奥山商事は一課の担当だ。謝罪の場に同席する。
小会議室には、俺と彩だけが取り残された。
やけに静かで、だから、彼女の声がよく響いた。
「ありがとう」
「ん?」
「来てくれて……」
俺を見ているが、目は合わない。
二人きりになると、昨日の気まずさがよみがえる。
「昨日は悪かった」
「ごめんなさい」
声が、重なる。
「え?」
三秒ほど、互いに顔を見合わせた。
で、俺が先に口を開いた。
「真の怪我はどんな具合だ?」
「――っ!」
どうして知っているのか、と不思議に思っているのが分かる。
「谷から聞いた」
「そ……っか。うん。土曜日にはギプスも取れそう」
「そうか」
「言わなくて、ごめんなさい」
「うん。ちょっと……、いや、かなり凹んだな」
「ごめんなさい」
彩が本当に申し訳なさそうに、肩を竦める。
「どうして言わなかった?」
「……それ……は……」
「まぁ、言っても俺にどうにかできることじゃないか」と言いながら、俺はガシガシと頭を掻いた。
「――違う! そんなんじゃ――」
沈黙。
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「……そうか」
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「……そうか」
子供にしたら、母親の関心が自分たち以外に向けられているのは面白くないだろう。ただでさえ、平日は仕事で家にいないのだから、月に一度とはいえ、土日も放っておかれるのは寂しいかもしれない。
それでも、俺は彩が、俺と一緒にいても子供たちを気にかけていることを知っている。
彩は決して、子供たちを蔑ろにはしていない。
だが、それは子供たちに伝わらなければ、意味がない。
「俺たちが思うより、真は複雑な心境なのかもしれないな」
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