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17 一難去ってまた一難
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しおりを挟む『違うだろ。同情して益井を許しそうだと思われたんだろ』
「え、そんな優しい人だと思われてるの?」
『思われてるんじゃね? 誰も、お前を怒らせたらめちゃくちゃ怖いの知らないから』
バツが悪そうに食器棚から包丁を取り出す智也を思い出すと、堪えきれず吹き出してしまった。
『何か思い出したろ』
「だって――」
『忘れろ』
「無理」
『お前っ――! 本気でビビッてたんだからな、あん時』
「だからって……」
突然、ジャーッと水音が聞こえた。シンクにぶつかるより曇った音。
「何してるの?」
『ん? あ、ケトル。飯食う暇なくてさ』
プラスチックの蓋を締める音、ケトルを台に載せ、スイッチを入れる音。それから、おそらくカップ麺のフィルムを外す音。
智也が一人でカップ麺をすする姿を思い浮かべたら、泣きそうになった。
どうしてこんなに遠いんだろ……。
『彩?』
「……ん」
私はスマホだけ布団から出して、智也に聞かれないように鼻をすすった。
「私、めちゃくちゃ怒ってるように見えた?」
『ああ』
「そっか」
あの場にいた三人からは、私が最後まで冷静だったことに感心された。が、そんな褒められたものじゃない。
三人が来る前に言いだけ喚き散らしてすっきりしてた、とは言えないよねぇ……。
『頑張ってた奥山の仕事を失くしそうなんだ、怒って当然だろ』
「うん……」
私は、個人的に渡部部長に謝罪に行こうかと考えていた。けれど、社としては凪子さんたちが同行の上で、益井課長が謝罪した。その上、一担当者である私が謝罪することに、さほどの意味はない。
契約解除になったら、ヘッドハンティングの話もなかったことになる?
まだ、返事は決めていない。
智也にも、話していない。
何となく、これは私自身の問題だから、相談するのは気が引ける。
こういうのが良くないんだろうなぁ……。
『真の怪我って、完治するまでにどのくらいかかるんだ?』
コポコポ、とお湯を注ぐ音。
「あと二週間、かな」
ギプスが取れた後も一週間ほどは走ったり跳んだりしてはいけないと言われている。
『そうか』
「智也。あの、真のことだけど――」
『――しばらくは、釧路に来ない方がいいな?』
「……」
私が言おうと思っていたことを、智也が言った。
『怪我が治ったからって、待ってましたって外泊されたら、真もムカつくだろ』
「…………」
智也の言うことは正しくて、私も三十秒前まではそう思っていて、って言うか、帰宅したとメッセージを貰うなり電話をしたのは、その話をするのが目的だったりする。なのに、智也に言われると、寂しくなる。
今日だって、本当はもっと一緒にいたかった。
昨日が気まずかったから、尚更。
最近、思うことが多すぎて、何も考えずに智也との時間を楽しめたのがいつだったか、わからない。
とはいえ、今智也と二人きりの時間が持てたとしても、きっと真のことが気になって楽しめはしない。
真の怪我の直後に思ったように、しばらくは母親業に専念するべきだろう。
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