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17 一難去ってまた一難
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私の、責めるような強い口調にムッとしたようで、顔を上げ、正面から私を見据えた。
「あなたへの一時の感情に振り回されて、五年後に後悔しても遅いのよ。今は私を恨んでも、いずれ感謝する時が来るわ。部長とはいえ本社から左遷されては、それ以上の出世は見込めないでしょう。それどころか、定年まで職があるかもわからない。私の会社を継げば、少なくとも自分が抗えない事情で職を失うことはないわ。何の苦労もせずに社長の椅子に座れるのよ? 何が不満なのかわからないわね」
「私には、何が不満かわからないなんて、不思議で仕方ありません」
「は!?」
「智也の気持ちはどうなるんですか?」
もう一度、言った。
「……」
「一時の感情でも、私を想ってくれているのも、左遷と言われても釧路に行くことを決めたのも、智也です。たとえ後悔しても、それは智也の問題です。自分の決断の結果ならば、智也はそれを納得して受け入れて、自分で結論を出します。だけど、お見合いも、親の会社を継ぐのも、智也が望んでいることではないじゃないですか。いずれ感謝する時が来るからと言いなりになって、感謝できなかったら、その決断を後悔したら、その時あなたはどう責任を取るんですか?」
私が話している最中、彼女は何度も物言いた気に口を開いたが、私はその隙を与えなかった。
イライラし過ぎて、お腹だけじゃなく胃まで痛い。
「余計なお世話ね。これは全て家族の問題であって、他人のあなたには関係のないことよ。私がわざわざあなたに会いに来たのは、息子と別れるようにと言うためよ。納得させるために会社のことやお見合いの話はしたけれど、理解や意見を求めているわけではないの。強いて言えば、これだけの好条件を渋るなんて、あなたの存在が智也の判断を狂わせている事実に腹が立って仕方がない、ということです」
ムカつき過ぎて、吐きそうだ。
つーか、智也はどこの御曹司だったのよ!?
どんだけ立派な会社を継がせようってのよ!!?
「あなたは黙って智也と別れたらいいのよ。たとえ、このお見合いが上手くいかなかったとしても、あなたが智也に相応しくないことは変わらないんだし」
デメリットしかない、とまた言われるのだろうか。
私は少し身構えて、言われる前に口を開いた。
「……バツイチの子持ちがそんなにいけませんか」
「そうね。けれど、あなたがあと五歳も若ければ、ここまで反対しなかったかもしれないわ」
「どういう――」
「――あなた、智也の子供を産める? たとえ妊娠したとして、無事に出産できる保証は? 生まれた子供が健康である保証は? 出産は出来ても、高齢のあなたがまともに子育て出来る?」
得意気にそう言いながらコーヒーをすする姿が、シンデレラの継母か、白雪姫の継母か、とにかく、典型的なクソババアに見えた。
「――そんなこと! 誰であろうと絶対の保証が出来ることじゃないじゃないですか! 出産経験のある女性として、よく平然と言えますね。それに、あなたは若くして出産されても、まともに子育てをしていなかったと聞きましたが?」
「あなたへの一時の感情に振り回されて、五年後に後悔しても遅いのよ。今は私を恨んでも、いずれ感謝する時が来るわ。部長とはいえ本社から左遷されては、それ以上の出世は見込めないでしょう。それどころか、定年まで職があるかもわからない。私の会社を継げば、少なくとも自分が抗えない事情で職を失うことはないわ。何の苦労もせずに社長の椅子に座れるのよ? 何が不満なのかわからないわね」
「私には、何が不満かわからないなんて、不思議で仕方ありません」
「は!?」
「智也の気持ちはどうなるんですか?」
もう一度、言った。
「……」
「一時の感情でも、私を想ってくれているのも、左遷と言われても釧路に行くことを決めたのも、智也です。たとえ後悔しても、それは智也の問題です。自分の決断の結果ならば、智也はそれを納得して受け入れて、自分で結論を出します。だけど、お見合いも、親の会社を継ぐのも、智也が望んでいることではないじゃないですか。いずれ感謝する時が来るからと言いなりになって、感謝できなかったら、その決断を後悔したら、その時あなたはどう責任を取るんですか?」
私が話している最中、彼女は何度も物言いた気に口を開いたが、私はその隙を与えなかった。
イライラし過ぎて、お腹だけじゃなく胃まで痛い。
「余計なお世話ね。これは全て家族の問題であって、他人のあなたには関係のないことよ。私がわざわざあなたに会いに来たのは、息子と別れるようにと言うためよ。納得させるために会社のことやお見合いの話はしたけれど、理解や意見を求めているわけではないの。強いて言えば、これだけの好条件を渋るなんて、あなたの存在が智也の判断を狂わせている事実に腹が立って仕方がない、ということです」
ムカつき過ぎて、吐きそうだ。
つーか、智也はどこの御曹司だったのよ!?
どんだけ立派な会社を継がせようってのよ!!?
「あなたは黙って智也と別れたらいいのよ。たとえ、このお見合いが上手くいかなかったとしても、あなたが智也に相応しくないことは変わらないんだし」
デメリットしかない、とまた言われるのだろうか。
私は少し身構えて、言われる前に口を開いた。
「……バツイチの子持ちがそんなにいけませんか」
「そうね。けれど、あなたがあと五歳も若ければ、ここまで反対しなかったかもしれないわ」
「どういう――」
「――あなた、智也の子供を産める? たとえ妊娠したとして、無事に出産できる保証は? 生まれた子供が健康である保証は? 出産は出来ても、高齢のあなたがまともに子育て出来る?」
得意気にそう言いながらコーヒーをすする姿が、シンデレラの継母か、白雪姫の継母か、とにかく、典型的なクソババアに見えた。
「――そんなこと! 誰であろうと絶対の保証が出来ることじゃないじゃないですか! 出産経験のある女性として、よく平然と言えますね。それに、あなたは若くして出産されても、まともに子育てをしていなかったと聞きましたが?」
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