続・最後の男

深冬 芽以

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17 一難去ってまた一難

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「四六時中そばにいるだけが子育てではないでしょう。私は、夏子と智也が何不自由なく生きていけるだけの収入を得ていたわ。二人の面倒を見てくれていた義母の生活も背負ってきたわ。あなたまさか、一緒にいられたらお金なんていらない、なんてきれいごとを言ったりしないわよね?」

「限度ってものがあると思います。少なくとも、子供に寂しい思いをさせて、親を親とも思わなくなるほど放っておくような人に、母親面されるのは智也じゃなくてもムカつきます」

 ゴンッ、と叩きつけるように、カップがテーブルに置かれた。

「目上の人間に対する言葉がなってないようね」

 流石に、『ムカつく』には気分を害されたらしい。

 自分でも、自分の親と同じくらいの人に対して、失礼な態度を取り、失礼な言葉を発しているとわかっている。けれど、他に言葉が思いつかなかった。

「すみません、教養がないもので」

 全く悪びれずに、言った。

「ますます、息子の相手としては相応しくないわね」

「あなたは、智也の母親には相応しくありませんね」

「何ですって!?」

 初対面の時も、今も、気取ってすまし顔をしていた彼女が、周囲の目も気にせず声を荒げた。

 私はゆっくりと腰を上げた。お腹に力を入れると、締め付けられるように痛い。陣痛を思い出すほどに。

「智也が好きな食べ物、知っていますか?」

「はっ!?」

「うどんに卵を落とすのが好きなこと、知っていますか?」

「……」

 何を言いだすんだと、彼女は怪訝な表情。

「カレーはカツカレーが好きだって、知っていますか?」

「…………」

 きっと、くだらないと思っているんだろう。

 だけど、大事なことだと思った。

 智也が子供の頃からうどんに卵を落としていたか、カツカレーが好きだったかはわからない。わからないけれど、問題はそこじゃない。

「智也に腕枕をして寝かせてあげたこと、ありますか?」

「何を言って――」

 興味がないように、彼女はため息交じりに口を開いた。

 彼女のカップを、彼女の頭の上でひっくり返してやりたくなった。

「気分も体調も悪いので、失礼します!」

 お腹が痛い。

 腰が痛い。

 頭が痛い。

 涙が出るのはそのせいだ。

 決して、あんな母親を持った智也を憐れんでいるわけじゃない。

 私は、家に帰るなり、真と亮を力いっぱい抱き締めた。
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