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19 すれ違う未来
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しおりを挟む私の勘は当たっていた。
会社で二枚目の婚姻届に記入し、それを持って行った時には、既に一枚目は記入済みだった。
「――けど、もう少し知らん振りしててくれない?」と、凪子さんはちょっと申し訳なさそうに言った。
「試すわけじゃないけど……、待ってましたって感じでサインしたなんて、なんか……悔しいから」
待ってたんだ……。
智也の言うことが、少しわかった気がした。
私よりも年上で、美人でスタイルも良くて、仕事もデキて隙のない女性なのに、今の凪子さんは顔を赤らめてはにかんで、すごく可愛い。
千堂課長がこのギャップに萌えるのは、当然だろう。
ま、私と凪子さんでは、雲泥の差なんだけど。
「いいですけど、千堂課長が痺れを切らして乗り込んでくる前には、連絡してあげてくださいね?」
「ん」
「良かった……」
今日は、定例の会議の後で千堂課長に呼び出され、一緒にランチを取った。
何でも好きなものを奢るからと言われて、私はちょっとリッチに海鮮丼をご馳走になった。
千堂課長の目的は凪子さんの体調と、婚姻届を見た時の反応を知ること。変に遠慮しては、課長が余計に不安になると思い、遠慮なくご馳走になった。
千堂課長と二人でランチしたとなれば智也が怒りそうだから、それはタイミングを見て話そうと思う。
婚姻届を見て、伝言を聞いた凪子さんが嬉しそうだったと伝えると、千堂課長は安心したように二枚目を差し出した。
そんな感じで、次の週末。
凪子さんの悪阻もだいぶ落ち着いて、週明けから出勤することになった。
私は八枚目の婚姻届と共に、凪子さんのマンションを訪れていた。
「スーツ、楽なのに変えた方がいいかな」
凪子さんがグレープフルーツをつまみながら言った。
「靴も、ヒール八センチはマズいわよね」
「悪阻で痩せちゃったから、スーツはまだいいだろうけど、ヒールはマズいね。いつもは大丈夫なのに、こういう時に限って躓いちゃったりするもんだから。それに、ヒールって無意識にお腹とお尻に力が入るんでしょ? だから、下半身を引き締めるのにいいって言うんだし」
今の会社に勤めだした時、私もいつもは三センチが限界なのに、ヒールが五センチの靴を履いてみた。一日履いただけで箱にしまわれた。
ただでさえ履き慣れなくて脹脛は痺れるし、外反母趾に力が入って、帰ってから靴を脱いでも痛みは引かず、いつもの靴に戻してもそれは続いた。
下半身ダイエットのために歩けなくなっては元も子もない。
「けど、八センチから三センチに変えたら、さすがに気づかれるわよね」
「それは……、そうだろうね」
「一週間も病欠したあとじゃ、バレバレか……」
はぁ、っとため息をつき、凪子さんがグレープフルーツに手を伸ばす。
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