続・最後の男

深冬 芽以

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21 天国から地獄

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 二年前を思い出させるような別れの場面シーンから一時間。

 二年前の俺は釧路行きのJRの中で、彩の弁当を食いながら寂しさと後悔の念に涙を滲ませていたが、現在いまの俺はまるで違った。



 ――つーか! 『私なんて智也には相応しくない』とか言っておいて、二回も振るってどうなんだよ!



 帰りのバスの中で、鼻息を荒くしながらぐるぐると同じことを考えていた。



 年下の、将来有望な、独身で、イケメンな、この俺を散々弄んで捨てるとは――!



 結局、彩がどれだけ自分を卑下しても、俺と彩の関係は常に彩が主導権を握っていた。

 俺の後ろを三歩下がって歩いているようで、俺は三歩先に行くように背突せっつかれていただけ。



 だからって、別れるこんな時まで主導権を握らせたままなんて、男が廃る――!



 というか、そもそも別れる気なんてない。

『智也は私の最後の男だよ』

 彩はそう言った。

 それはつまり、俺を嫌いになったわけではないということだ。いや、もっと言えば、彩は今も俺を愛している。

 元夫が『最後の男』であることが嫌で、俺の挑発に乗ったような女だ。その彩が、俺を『最後の男』だと言い切った。死ぬまで俺が好きだと宣言されたようなもんだ。

 もっと違うシチュエーションなら、素直に喜んで、彩を抱き締めて、キスをして、離さないところだ。

 それに、あの言葉が俺を喜ばせることは、彩が誰よりもよくわかっている。

 本気で俺が嫌になって別れたいのなら、それを伝える言葉の選択肢はごまんとある。

 彩が俺を嫌いになったのではないと断言できる理由はもう一つある。



 別れたい男との最後のセックスがゴムなしなんて、余程の馬鹿じゃなきゃ有り得ないだろ――。



 ゴムなしでなんて、初めてだった。

 お互いに分別のある大人で、一時の快楽に溺れた後に何が待っているか、それを見失ったことはない。

 その彩が、自ら望んだ。

 手を伸ばせばゴムはあったのに。

 俺が拒絶しなかったのは、完全に下心。

 ただし、気持ち良くなりたいというものじゃない。

 だから、何度も抱いた。



 そうだよ!

 子供が出来ていたら、どうすんだよ!!



 バスを降り、コンビニでカゴ一杯の酒とつまみを買った。

 事情があったにしろ、プロポーズしようとしていた恋人に別れを告げられて、平気なわけじゃなかった。

 両手にビニール袋をぶら下げ、寝床を目指す。その足取りは重く、その道のりは長かった。

 なんだかんだ言って、俺は彩の一番になれないことを、軽く考えていた。いや、考えないようにしていた。

 愛情は目に見えない。

 だから、彩の俺への愛情が、子供たちと同率一位だと信じれば、それが真実なのだ。

 だが、そうではなかったと思い知らされた。

 俺と別れなければならない理由があったなら、言って欲しかった。

 話し合って、二人で乗り越えたかった。



 一緒にいる努力を、放棄してほしくなかった――。


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