続・最後の男

深冬 芽以

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21 天国から地獄

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 電話もメッセージもことごとく無視されて、というか、ブロックされていて、釧路にいながら彩と連絡を取るのは不可能だった。だから、有休をとって札幌に帰って来た。

 姉さんにそれとなく聞いてみたが、『仕事が忙しいから、しばらく会えない』と言われていた。

 冨田にも聞いたが、同じだった。

 千堂からは、真とメッセージの交換をしているから、様子を聞いてみようかと言われたが、断った。子供を使うのは、違うと思った。

 こうなると、残された手段は、お宅訪問だ。

 彩の家は知っている。

 木曜の午後。

 俺は彩の自宅前にいた。

 インターホンを押す指が震える。

 玄関ドアが、地獄の入り口のように思える。

 つい四日前。

 まさに、天国から地獄、を体験した。

 彩に別れを告げられ、連絡の一切が取れなくなった今より、地獄があるはずがない。

 彩が出てくることを祈って、俺はドアを開けるためのボタンを押した。

 ピーンポーン、とお気楽な呼び出し音が響く。俺は深呼吸をして、カメラに向かった。



 さぁ、誰が出る。



『はい』

 男の声。ということは、彩の父親。

 一瞬で、背中が汗ばむ。



 最悪の初対面だ……。



 だが、逃げ道はない。

 俺は腹を括り、背筋を伸ばした。

「突然、すみません。私、溝口と申します。堀藤彩さんは御在宅でしょうか」

 完全に、営業モードになってしまった。

 だが、仕方がない。

 それに、畏まり過ぎて悪いことはない。

『お待ちください』

 その言葉に従い、待った。五秒。六秒かもしれない。

 そして、ドアが開いた。

 瞬間、俺は条件反射的に腰を直角に折っていた。

「初めまして。溝口智也と申します!」

 彩のお父さんは彩とさほど変わらない背の高さで、俺は見下ろす格好になってしまった。

 一瞬だけでは、彩に似ているかわからないが、雰囲気が似ているのはわかった。

 穏やか。

 彩が、お父さんが禿げてきているから真と亮も禿げるのでは、と言っていたのを思い出した。確かにふさふさではない。

 お父さんが俺のことをどの程度知っているのかがわからない上に、突然の訪問だ。俺はもう一度頭を下げた。

「突然、申し訳ありません」

「初めまして、彩の父です。彩がお世話になったと聞いています」

『お世話になった』という過去形が、気道を塞ぐ。

「申し訳ありませんが、彩は留守です」

「そう……ですか。では、また改めて――」

「立ち話もなんですから、上がりませんか」

「――えっ!?」

「私一人なので、麦茶くらいしか出せませんが」

「え? あ、いや――」

 突然のお茶のお誘いに、動揺した。

 しかも、お父さんと二人きり。

 何を言われるのか、お父さんの意図が読めず、パニック。

「明日、また来ても、彩は留守ですよ」

 その言葉が引っ掛かった。

 旅行にでも行っているのか。

「お言葉に甘えて、お邪魔します」

 お父さんに促されるまま、俺は彩の家に足を踏み入れた。

 ちょうど彩が生まれた時に建てたと聞いていたが、二度ほどリフォームをしているからか、さほど古いと感じなかった。もちろん、今時の家とは違うが。

 脱いだ靴を揃える手が、震える。

 ふっと、見覚えのあるパンプスが目に入った。彩がいつも仕事で履いている黒いパンプスが、靴棚に入っている。

 当然だが、家は静かだった。

 お父さんは刑事ドラマの再放送を見ていたようだが、すぐに消された。余計、静かになる。
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