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23 決別、そして、拉致
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姉さんは、全面的に俺の意志を尊重し、味方になってくれた。
両親はオーストラリアに永住するのだという。終の棲家として、既に家を購入したあったらしい。どこまでも自分勝手な二人だ。
洗面所からドライヤーの音が聞こえて、すぐに止んだ。どうしたのかと覗いてみると、彩が洗面台に両手をついて立っていた。
「どうした?」
彩の髪からは雫が滴っている。
「腕を上げると……ちょっと痛くて」
シャワーを浴びて疲れたのだろう。さっぱりはしたようだが、顔色が悪い。
「こっちで乾かそう」
俺はドライヤーのコンセントを抜き、片手にドライヤーを持ち、片手は彩の手を引いてリビングのソファに座らせた。
背後から彩の髪に熱風を当てる。
髪を乾かし、サンドイッチを一つと、ポトフを半分食べて、彩はベッドに入った。
俺は部下からのメールチェックをして、彩のお母さんにメッセージを送った。
『シャワーを浴びて、昼ご飯を少し食べて、眠りました』
すぐに既読になり、すぐに返信が来た。
茶色くて太った犬がお辞儀をしているスタンプ。吹き出しには、ありがとう。
ちなみに、彩のお母さんは名前が『きみ子』で、メッセージアプリのニックネームは『きみちゃん』。しかも、『きみちゃん』と呼ぶように言われた。
まだ、お義母さん、じゃないからと。
まだ、呼んだことはない。
だが、お母――きみちゃんは、俺を『智くん』と呼ぶ。それに全く抵抗がないのは、彩の妹の旦那のことを『瑛ちゃん』と呼んでいるからだそう。
さらにきみちゃんは教えてくれた。
彩の元夫のことは、『堀藤さん』と呼んでいたとも。
この一週間で、彩の家族との距離はぐっと近づいた。特にきみちゃんと。彩本人はそっちのけで。
彩が眠って二時間ほどして寝室を覗くと、彩が眉を潜ませながら寝返りしていた。ゆっくりと瞼が開く。
「痛いのか?」
「少し」
「痛み止めとか――」
「大丈夫」
近寄ってみたものの、どうしてやったら楽になるのかわからない。おろおろするだけの俺に、彩がフッと笑った。
「大丈夫よ」
「だけど、手術したんだろ?」
「そうだけど、すぐに慣れるし」
「いや、慣れないだろ。腹、切ったんだぞ」
「帝王切開の時と同じだから。二、三日もしたら普通に動けるよ」
「彩……」
俺はベッドの下に膝をつき、マットレスに肘を立てて、彩の頬に触れた。彼女が目を細める。
「頑張り過ぎんな」
「大丈夫」
「お前の『大丈夫』ほど当てになんねーもんはない」
「本当に大丈夫よ」
「俺がいなくても――って? それは、却下。帰さねーよ」
「智也」
「絶対、離さない」
少しパサついた彼女の髪を人差し指に絡め、そっと顔を寄せた。反射的に、彩が目を閉じる。
「別れたいと思ってる男に、キスされていーのか?」
パッと目が開き、その瞬間にキスを落とした。瞼に。
「素直じゃねーな」
彩が顔半分まで布団を持ち上げながら、俺から顔を背けようとする。が、俺は彩の頬を掴んでそれを許さない。
今度は、噛みつくようにキスをした。唇に。
両親はオーストラリアに永住するのだという。終の棲家として、既に家を購入したあったらしい。どこまでも自分勝手な二人だ。
洗面所からドライヤーの音が聞こえて、すぐに止んだ。どうしたのかと覗いてみると、彩が洗面台に両手をついて立っていた。
「どうした?」
彩の髪からは雫が滴っている。
「腕を上げると……ちょっと痛くて」
シャワーを浴びて疲れたのだろう。さっぱりはしたようだが、顔色が悪い。
「こっちで乾かそう」
俺はドライヤーのコンセントを抜き、片手にドライヤーを持ち、片手は彩の手を引いてリビングのソファに座らせた。
背後から彩の髪に熱風を当てる。
髪を乾かし、サンドイッチを一つと、ポトフを半分食べて、彩はベッドに入った。
俺は部下からのメールチェックをして、彩のお母さんにメッセージを送った。
『シャワーを浴びて、昼ご飯を少し食べて、眠りました』
すぐに既読になり、すぐに返信が来た。
茶色くて太った犬がお辞儀をしているスタンプ。吹き出しには、ありがとう。
ちなみに、彩のお母さんは名前が『きみ子』で、メッセージアプリのニックネームは『きみちゃん』。しかも、『きみちゃん』と呼ぶように言われた。
まだ、お義母さん、じゃないからと。
まだ、呼んだことはない。
だが、お母――きみちゃんは、俺を『智くん』と呼ぶ。それに全く抵抗がないのは、彩の妹の旦那のことを『瑛ちゃん』と呼んでいるからだそう。
さらにきみちゃんは教えてくれた。
彩の元夫のことは、『堀藤さん』と呼んでいたとも。
この一週間で、彩の家族との距離はぐっと近づいた。特にきみちゃんと。彩本人はそっちのけで。
彩が眠って二時間ほどして寝室を覗くと、彩が眉を潜ませながら寝返りしていた。ゆっくりと瞼が開く。
「痛いのか?」
「少し」
「痛み止めとか――」
「大丈夫」
近寄ってみたものの、どうしてやったら楽になるのかわからない。おろおろするだけの俺に、彩がフッと笑った。
「大丈夫よ」
「だけど、手術したんだろ?」
「そうだけど、すぐに慣れるし」
「いや、慣れないだろ。腹、切ったんだぞ」
「帝王切開の時と同じだから。二、三日もしたら普通に動けるよ」
「彩……」
俺はベッドの下に膝をつき、マットレスに肘を立てて、彩の頬に触れた。彼女が目を細める。
「頑張り過ぎんな」
「大丈夫」
「お前の『大丈夫』ほど当てになんねーもんはない」
「本当に大丈夫よ」
「俺がいなくても――って? それは、却下。帰さねーよ」
「智也」
「絶対、離さない」
少しパサついた彼女の髪を人差し指に絡め、そっと顔を寄せた。反射的に、彩が目を閉じる。
「別れたいと思ってる男に、キスされていーのか?」
パッと目が開き、その瞬間にキスを落とした。瞼に。
「素直じゃねーな」
彩が顔半分まで布団を持ち上げながら、俺から顔を背けようとする。が、俺は彩の頬を掴んでそれを許さない。
今度は、噛みつくようにキスをした。唇に。
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