続・最後の男

深冬 芽以

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 智也は私の身体を気遣ってくれたけど、大丈夫だと言って譲らなかった。

 二人で抱き合ったまま、ベッドに入る。

 三十分前。

 私は人生で二度目の婚姻届に記入した。

 私が退院する前に智也が用意してあったもの。

 証人の欄には、私のお父さんと夏子の署名。

「婚姻届、いつ出す?」

 私の髪で指遊びしながら、智也が言った。

「大安がいいとか、覚えやすい日がいいとかあるか?」

「んー……」

「彩の誕生日は?」

 来週末は私の誕生日。

 四十一歳になる。

「忘れなくていいね」

「プレゼントをまとめたりしないからな?」

「なに、それ」

「姉さんに言われた。誕生日が結婚記念日って女は嬉しいか、って聞いたら、プレゼントをまとめられなければ、って」

 私はクスッと笑った。

 夏子の言葉より、智也がそんなことを相談していたことが嬉しくて、可愛いと思ったから。

「最初の結婚記念日のプレゼントは……やっぱ指輪かな。誕生日のプレゼントは何がいい?」

「大丈夫かなぁ……」と、私はわざとらしくため息をついた。

「何がだよ?」

「智也の金銭感覚。結婚したらお小遣い制だよ? 必需品以外は基本は自分のお小遣いの範囲内で買うんだよ? そんな生活、したことある?」

「……高校生の時?」

「因みに! その頃のお小遣いは?」

 聞かなくても想像はつく。

 両親が仕事で留守がちで、しかも生活に困って仕事をしているわけではないとなると、当時の私の小遣いの倍はくだらないだろう。

「覚えてねーけど……」と、智也は口をへの字に曲げて天井を見つめる。

「高一で一万、高二で二万……とか?」

 やっぱり。

「けどっ! だからってアホみたいに使い果たしたりしなかったぞ?」

 私の恨めしそうな視線に気づいてか、智也は慌てて付け加える。

「飯代とか服代も込みだったし。三年の頃は参考書とかでほとんど消えてたし」

「デート代の間違いじゃない?」

「――っ! そりゃ、そういう……のもなくはなかったけど! 別に――」

「そんな生活に戻れる?」

「ん?」

 私は智也の胸の上の手を伸ばし、サイドチェストの上のスマホを取ってと、手をパタパタさせてジェスチャーした。取ってもらったスマホを操作し、目当てのサイトを表示させると、彼に見せた。

「サラリーマンの小遣いの平均?」

 智也はサイトを読み進め、終わると無言でスマホをチェストの上に置いた。伏せて。

 それから、私をギュッと抱き締め、頬にキスをする。

「愛してるよ、彩」

「そんなこと言っても、お小遣いは増えません!」

「あーや」

「ダーメ!」

 智也に見せたサイトには、年代別の小遣いの平均額と、年収別の平均額が載っていた。

 三十代の平均額は、三万六千円程。四十代は、三万七千円程。

 年収別では、六百万で四万三千円程。七百万で五万円程。

 そう言えば、私は智也の正確な年収を知らない。課長は月給制だが、部長以上は年俸制なのは知っている。
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