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25 家族
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しおりを挟む日曜の朝。
俺はきみちゃんに連絡をして、真と亮を迎えに行った。二人と、ケーキを買って帰ると、彩は台所に立っていた。
あれだけ、休んでいろと言ったのに。
車の中で彩の様子を色々聞いてきた亮は、元気そうな母親の姿に安心したようで、今度は彩を質問攻めした。もう腰は痛くないのか、いつ帰って来るのか、などなど。
それから、自分の話をした。
彩の入院中の学校生活のことや、真と喧嘩したこと、などなど。
彩は頷きながら聞いて、時々真が口を挟む。俺は、その様子をダイニングから眺めていた。
一通り、言いたいことを言い終えた亮は、ジュースを一気飲みして、俺のところに来た。
「お代わりしていーい?」
「ん。冷蔵庫に入ってるから、好きなの飲んでいーぞ」
「ありがと!」
亮は冷蔵庫を開け、ドアポケットのカルピスを取り出す。その場でキャップを開けようとするが、なかなか開かない。俺が締めたからきついのだろう。
開けてやる、と言おうとした時、亮がペットボトルとコップを抱えて戻って来た。が、俺を素通りして行く。
「兄ちゃん、開けて!」
面倒臭そうに真がキャップを開け、コップに注いでやる。再びキャップを締めたペットボトルを、亮が冷蔵庫に戻す。
一抹の寂しさを覚えた。
当然だが、彩と真と亮には、三人だけの家族のかたちがある。そこに加わるのは、簡単なことじゃない。俺にとっても、子供たちにとっても。
なぜなら、俺が加わることで形が変わるから。
変わることで、いいこともあれば、悪いこと、嫌なこともあるだろう。
子供たちはそれを受け入れてくれるだろうか……。
テーブルに頬杖をついて三人を眺めていたら、彩と目が合った。微かに微笑み、視線を子供たちに戻す。
「真、亮」
呼ばれた二人が彩を見つめる。
「お母さん、溝口さんと結婚したいんだ」
彩が照れ臭そうに言った。
「いいよ!」と、亮が言った。
俺に言ったように、元気いっぱいの笑顔で。
彩の家族からは結婚の許しを得ていると話したが、それでもわずかに不安だったのか、彩はホッとした表情を見せた。
「真は?」
「いいよ」と、ぶっきら棒に言った。
それから、俺を見る。
「結婚するのはいいけど――」
何を言われるのかと、緊張する。
「転校は嫌なんだけど」
「え? 転校すんの? 俺もヤだ!」
真の言葉に、亮も声を上げる。
「ムリ、ムリ!」
マズい流れだ。
「お母さん、転校すんのヤだ!」
「決まったわけじゃないから――」
「――ってか、しばらくは別居?」と言いながら、真が俺を見る。
「釧路から戻って来れるわけじゃないんでしょ? なら、俺たちは今まで通りじいちゃん家に居ていいんだよね?」
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