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25 家族
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しおりを挟む「真。その辺のことはまだ――」
「受験前に引っ越しとか転校とか、マジでヤなんだけど」
彩ではなく俺に向かって言うあたり、結婚を反対されているような気になる。
いや、結婚してもいい、って言ったんだから、それはないか。
では、俺に何とかしろと言っているわけか。
昨夜、彩と住まいの話はしなかった。当面は別居生活になると、彩も思っているからだろう。実際、今すぐ札幌で四人で暮らすことは出来ない。
だが、ズルズルと別居生活をする気もない。
それについては、俺も考えていた。
「家、建てるか」
「――はっ!?」と、真。
「転校しなくていい場所に、建てよーぜ」
「智也! そんなこと軽々しく――」
「考えてはいたんだよ。このマンションじゃ手狭だし、そもそも結婚を意識して買ったわけじゃないし。それに、共働きなら、どうしたって彩の実家近くにいた方が助かるだろ?」
「そりゃ、そうだけど……」
「――つーことでいいか? 真、亮」
「オッケー!」と、亮。
「いいよ」と、真。
「あ! けど――」と、今度は彩。
「転校しないまま名字変わっちゃうの、嫌じゃない? どうせなら、転校しちゃった方が――」
「ヤダ!」と、亮。
「そんなの珍しくないから、気にしない」と、真。
「あ、そうなの?」と、彩は拍子抜けしたよう。
「なら、いいけど」
「あ!」と、今度は亮。
「智くん、俺たちのお父さんになるんでしょ? お父さん、って呼ばなきゃダメ?」
どうでも良さそうなことだが、考えた。
亮の言い方だと、呼びたくない、ってことっぽいよな。
お父さん、が二人いるのも紛らわしいだろうし、真だって同じ考えだろう。
そこは、こだわってはいけない気がした。
本当は、呼んで欲しいけれど。
「別に『智くん』のままでも――」
「ダメ」
意外なことに、そう言ったのは真。
「なんで!?」
「知らない人が聞いたら、変に思うだろ」
「なんで!?」
「なんでも! とにかく、もう今から『智くん』は禁止!」
真の言うことも尤もだ。
呼び方ひとつで、家族認定されるかが決まる。
真にこそ『お父さん』と呼ぶのを拒否されるかもと思っていたから、なんだかやけに嬉しくなった。
結婚に条件つけたり、転校嫌がったりしてハラハラさせて、最後にきっちり持ち上げてくるなんて、なかなかやるな。
「真、お前営業に向いてんな」
「はい?」
「軽く落としてがっつり上げるとか、そうできることじゃねーぞ」
「なんの話!?」
「お前、女にモテるだろ」
「はっ!? モテねーし! つーか、関係ないだろ!」
思い当たることがあるらしく、顔を真っ赤にして悪態をつく。
そんな真を泣きそうな顔で見つめる彩。
我関せずとジュースを飲んでお菓子を食べる亮。
俺は、声を出して笑った。
俺にからかわれてると思って、真が益々怒る。
俺の家族は、サイコーだ!
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