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3.元上司がルームメイトになりました
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「いっせー――」
ぐっと指に力を入れる。
「――のー――」
指同様、歯も食いしばる。
「――でぇっ!」
ぐぐっと力を入れると、真っ暗な画面に白いマークが浮かび上がる。
私はじっとそのマークが消えるのを待つ。
ドッドッドッドッと心臓が鈍い音を立てる。
たかが着歴、たかがメール。
別に、スマホから手が伸びてきて首を絞められるわけじゃない。
なのに、そんな恐怖を与えるほどの何か、がある。
同じく、篠井さんも神妙な面持ちでスマホを睨みつけている。
パッと画面が明るくなった、と思ったらピコピコ激しく音が鳴りだす。
と思っていたのだが、二台ともうんともすんともいわない。
「あれ?」
声を出したのは私だけれど、篠井さんも同様に不思議そうな表情をしている。
顔を見合わせ、スマホに視線を落とす。
「心配しすぎでしたかね?」
「ああ……」
ホッと息を吐いた時、おそらく同時に気がついた。
「嘘――」
「――だろ」
メッセージの未読件数が三桁に届こうとしている。
既読をつけてはいけないやつ……よね。
ただ、全てが卓からだとは限らない。
私はとにかく、メッセージアプリを開いた。
三件を除いて、全て卓だった。
三件は篠井さんからで、私が買い物に行っている間のものだった。
既読をつけないまま、スマホを伏せてテーブルに置く。と同時に、ピコンッと音がした。
見たくない。
「ブロック……するか」
「え?」
「そうだよな。電源切るより、ブロックすれば良かったんだ」
「なるほど。ですね!」
「あ、でも、荷物取りに行く時どうすっかな……」
そうだ。
篠井さんは元カノのマンションに荷物が残っていて、取りに行く時に連絡すると言っていた。
篠井さんがマンションに入るなり、元カノが跨る姿を想像し、ゾッとする。
同時に、閃いた。いや、閃いたと言うほどのことでもない。
「助っ人を呼びましょう」
「助っ人?」
「はい。一人で行けば無理やりひん剥かれて馬乗りの可能性もあり――」
「――おい」
驚くほど露骨に不快そうな表情の篠井さんはさておいて、私は続けた。
「そもそも、ひとりか私と二人で荷物を持って来ようって言うのは無理がありませんか?」
「いや? 家具は机と本棚くらいだし――」
「――もうすでに、無理です」
「そうか?」
この男は、私をどんな引っ越しのプロだと思っているのか。
「なので、誰かに頼んで――」
「――誰に?」
「……」
そこは私が考えるの? と聞こうと思ったが、聞かなくてもわかった気がしてやめた。
だが、確認は必要だ。
「誰かいないんですか? 引っ越しを手伝ってくれるような友達」
「……いなくはない……はず」
「いないんですね」
思わず、はぁとため息が出てしまった。
「おまっ――! なんだよ、そのザンネンな野郎を見る目は。じゃあ、お前はいるのかよ!? 引っ越しする時、手伝ってくれる友達」
「いますよ。地元になら」
「そんなん言ったら、俺だっているよ」
「なるほど。つまり、私たちは社会人になってからの友達がいない、と」
「そうだ。そこが重要だ。社会人になってから、はいないだけだ」
なんだ、このちっぽけな見栄は。
「一緒に仕事してる友達は? 会社を辞める時言ってましたよね? 友達と起業するって」
「ああ。だが、わかりやすく友達と表現したが、実際はビジネスパートナーなだけで、プライベートには一切関わらない」
「ああ! だから、宿無しになっても助けを求められないんですね」
「羽崎。お前、言うようになったなぁ?」
漫画なら、篠井さんの背後に『ゴゴゴゴゴ……』と文字入りの炎なんかが描かれそうな形相。
だが、私はフフンッとわざと挑発的な表情を返した。
「もう上司と部下じゃないですもんねぇ~。今の私は篠井さんの宿主ですもん」
「人を寄生虫みたいに言うな!」
「とにかく! わかりました。引っ越しの助っ人は後で考え――」
トゥルルルル、と着信音が響き、私と篠井さんがハッとしてそれぞれスマホを見る。
私、だ。
もちろん、相手は卓。
「とにかく、今はブロックしよう」
「はい!」
こうして、私たちのスマホは無駄な充電の消耗をやめた。
ぐっと指に力を入れる。
「――のー――」
指同様、歯も食いしばる。
「――でぇっ!」
ぐぐっと力を入れると、真っ暗な画面に白いマークが浮かび上がる。
私はじっとそのマークが消えるのを待つ。
ドッドッドッドッと心臓が鈍い音を立てる。
たかが着歴、たかがメール。
別に、スマホから手が伸びてきて首を絞められるわけじゃない。
なのに、そんな恐怖を与えるほどの何か、がある。
同じく、篠井さんも神妙な面持ちでスマホを睨みつけている。
パッと画面が明るくなった、と思ったらピコピコ激しく音が鳴りだす。
と思っていたのだが、二台ともうんともすんともいわない。
「あれ?」
声を出したのは私だけれど、篠井さんも同様に不思議そうな表情をしている。
顔を見合わせ、スマホに視線を落とす。
「心配しすぎでしたかね?」
「ああ……」
ホッと息を吐いた時、おそらく同時に気がついた。
「嘘――」
「――だろ」
メッセージの未読件数が三桁に届こうとしている。
既読をつけてはいけないやつ……よね。
ただ、全てが卓からだとは限らない。
私はとにかく、メッセージアプリを開いた。
三件を除いて、全て卓だった。
三件は篠井さんからで、私が買い物に行っている間のものだった。
既読をつけないまま、スマホを伏せてテーブルに置く。と同時に、ピコンッと音がした。
見たくない。
「ブロック……するか」
「え?」
「そうだよな。電源切るより、ブロックすれば良かったんだ」
「なるほど。ですね!」
「あ、でも、荷物取りに行く時どうすっかな……」
そうだ。
篠井さんは元カノのマンションに荷物が残っていて、取りに行く時に連絡すると言っていた。
篠井さんがマンションに入るなり、元カノが跨る姿を想像し、ゾッとする。
同時に、閃いた。いや、閃いたと言うほどのことでもない。
「助っ人を呼びましょう」
「助っ人?」
「はい。一人で行けば無理やりひん剥かれて馬乗りの可能性もあり――」
「――おい」
驚くほど露骨に不快そうな表情の篠井さんはさておいて、私は続けた。
「そもそも、ひとりか私と二人で荷物を持って来ようって言うのは無理がありませんか?」
「いや? 家具は机と本棚くらいだし――」
「――もうすでに、無理です」
「そうか?」
この男は、私をどんな引っ越しのプロだと思っているのか。
「なので、誰かに頼んで――」
「――誰に?」
「……」
そこは私が考えるの? と聞こうと思ったが、聞かなくてもわかった気がしてやめた。
だが、確認は必要だ。
「誰かいないんですか? 引っ越しを手伝ってくれるような友達」
「……いなくはない……はず」
「いないんですね」
思わず、はぁとため息が出てしまった。
「おまっ――! なんだよ、そのザンネンな野郎を見る目は。じゃあ、お前はいるのかよ!? 引っ越しする時、手伝ってくれる友達」
「いますよ。地元になら」
「そんなん言ったら、俺だっているよ」
「なるほど。つまり、私たちは社会人になってからの友達がいない、と」
「そうだ。そこが重要だ。社会人になってから、はいないだけだ」
なんだ、このちっぽけな見栄は。
「一緒に仕事してる友達は? 会社を辞める時言ってましたよね? 友達と起業するって」
「ああ。だが、わかりやすく友達と表現したが、実際はビジネスパートナーなだけで、プライベートには一切関わらない」
「ああ! だから、宿無しになっても助けを求められないんですね」
「羽崎。お前、言うようになったなぁ?」
漫画なら、篠井さんの背後に『ゴゴゴゴゴ……』と文字入りの炎なんかが描かれそうな形相。
だが、私はフフンッとわざと挑発的な表情を返した。
「もう上司と部下じゃないですもんねぇ~。今の私は篠井さんの宿主ですもん」
「人を寄生虫みたいに言うな!」
「とにかく! わかりました。引っ越しの助っ人は後で考え――」
トゥルルルル、と着信音が響き、私と篠井さんがハッとしてそれぞれスマホを見る。
私、だ。
もちろん、相手は卓。
「とにかく、今はブロックしよう」
「はい!」
こうして、私たちのスマホは無駄な充電の消耗をやめた。
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