サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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5.交際を申し込まれました

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「どれも、結果論だ。結婚した結果、離婚することになった。子供を産んだ結果、子供を一番に愛せなかった。これは、結婚してみなきゃ、出産してみなきゃわかんねーんだし。ただ、離婚はまぁ、ともかく、子供に関しては責任がある。気持ちがわかるからって許されることじゃない」

 篠井さんの言葉に、胸の奥がジワリと熱くなる。

 私もいい歳をした大人で、両親の身勝手さは理解している。

 愛しているから、もっと愛する人に出会ってしまったから、なんて子供を傷つけて振り回す正当な理由じゃない。

 そもそも、子供を傷つけて蔑ろにして良い理由なんてない。

 わかっている。


 それでも――。


「子供を捨ててまで貫きたい愛、ってすごいですよね」

「……そうか?」

「すごいですよ。すごいものじゃなきゃ――」


 捨てられた私が惨めだ。


「――それを確かめたくて、結婚したいのか?」

「結婚したら、確かめられますかね」

 なんて不純な理由で結婚しようと思うのか。

 これじゃ、卓を責められない。

「結婚して、それが思うほど凄いもんじゃなかったら離婚するのか?」

「わかりません。結婚したことないのに、離婚する気持ちなんて――」

 自分の言葉に、呆れる。

 卓が浮気しなかったら、私たちは遠からず結婚していたかもしれない。

 そして、考えたはずだ。

 母はこの生活のために私を捨てたのだろうか、と。

 考えて、納得できるほど卓を愛して、卓に愛されていればいい。

 今はもう、そんな自分を想像もできないが。


 けれど、虚しさを覚えてしまったら――。


「――子供を捨てる云々は同意できないが、結婚したいと思うほど愛せる人と出会えること自体がすごいことだと思うぞ」

 篠井さんの言葉にハッとした。

 いや、ヘッ? と思った。

 失礼を承知で言うと、彼からそんなロマンティックな言葉が出るとは思わなかったから。

 そして、私のその失礼な思考が言葉ではなく表情に出ていたらしい。

 篠井さんが細い目をさらに細めてジトッと私を見た。

「どーせ、鬼篠らしくないこと言ってると思ってるんだろ」

「いえっ?」

 お笑い芸人バリにわかりやすく語尾が跳ねてしまった。

 ふんっと鼻息荒く、篠井さんが不機嫌な表情になる。

「あのなぁ、結婚しようとしてた女にあんなことされたら、結婚までのハードルの高さを思い知るだろ」

「確かに」

 ひと月前のことだが、まざまざと思い出せる。

「出会って、好きになって、相手にも好きになってもらって、付き合って、それなりの期間付き合って、結婚を考えて、相手の同意を得て、家族の了承を得て、結婚式と新婚旅行と新居について希望や予算、日程を擦り合わせる等々を経て、ようやく結婚だ。好きだの愛してるだのと浮かれた勢いで突っ走れたら苦じゃないんだろうが、どこかでどちらかがよそ見したり躓いたらゴールが遠のくかスタートに戻る、だ。恥を晒すようで気が引けるが、俺は子供時代、人生ゲームで勝った経験がない。四人中三位がいいところだ。そんな俺がリアル人生で順調にゴールできるはずがなかったんだ。必ず、会社が倒産するとか家が火事になるとか投資に失敗するとか――」

「――篠井さん、火の元が心配で眠れなくなりそうです」

「あ、わり――」

 篠井さんが立ち上がり、冷蔵庫からビールと梅サワーを持って戻る。

 サワーを私の前に置き、椅子に座る。

 私は「ありがとうございます」と言って、缶を開けた。
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