サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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8.まさかの再会で……

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「俺、結婚するわ」

 出社早々、ほぼ無意識にそう言っていた。

「ああ。記念日を決めたんだ?」

 事務所の代表であり大学時代の友人でもある、小田原大貴おだわら ひろたかの言葉に、ハッとする。

「違う。ソレじゃない」

「は?」

「前に話してた女じゃない」

 大貴には、香里と結婚するから一緒に暮らす、ところまでしか話していなかった。

「ふ~ん。別にいいけど」

 大貴はあまり興味がないようで、顔色も変えずにカタカタとキーボードを打ち続けている。

 大貴と俺は大学の同期で、たまたま住んでいたアパートの隣人だったことで親しくなった。

 円満でない家庭環境で育った大貴は他人と必要以上に関わることがなく、体調を崩して倒れていたのを俺が見つけなければ死んでいたのではないかと心配になったほど。

 卒業後は引っ越しもしたし就職先も違ったから疎遠になっていたが、人間関係が原因で会社勤めを諦めた大貴から起業を持ちかけられたのと、俺が上層部とやり合って退職を決めたのがほぼ同時だった。

 大貴はエンジニアというかプログラマーというか、とにかくIT系にめっぽう強く、営業力は壊滅的に弱かった。

 そこで、俺の出番だ。

 俺は大貴の腕、システムを売り歩いた。

 まずは中小企業に勤怠管理システムとそれに連動した給与計算システムの導入を勧めて歩き、徐々に企業規模を大きく、専門的なシステムの開発と導入を営業して回った。

 大貴は自他ともに認める名ばかりの代表で、実質は俺が開発以外の全ての業務を仕切っていた。

 営業、経理、スケジュール管理、従業員の採用から指導。

 忙しさに目が回る四年間だったが、充実もしていた。

 利益にならない相手に頭を下げる必要はなく、僻み妬みから足を引っ張る同僚もいない。

 収入面では不安定な時期もあったが、今はそれなりの収入で安定している。

 夏依と再会した出張での成果もあり、三月の決算賞与は期待できそうだ。


 ちょうど三か月か……。



事務所ここに女が乗り込んでくるとか、やめろよ」

 大貴が言った。

 俺は香里がそうするつもりならとっくにそうしているだろうと思って、はははと笑った。

「そういや、来ないな。鬼電ばっかで」

「恨まれるような別れ方したんだ?」

「いや? 恨まれるようなことをしたのはアッチ。なのにしつこいからわけがわからん」

「ふ~ん」

 心底どうでも良さそうだ。

「前から言ってたろ? 前の職場から連れてきたい元部下がいるって。その子」

「元部下に手を出したんだ?」

「まぁ……そうなるか」

「けど、光希がずっとうちに入れたがってたんだから、かなり優秀なんだろ? 結婚するからって諦める必要ある? 俺は気にしないよ」

「俺が鍛えたんだから優秀なのは間違いないけど、嫁と同じ職場ってどうなんかなぁ」

 プロポーズ予告したのは二日前。

 気が早いと自分でも思うが、夏依のことを『嫁』とか言ってみて気分がいい。

「あ、で、いつ結婚すんの?」

「ん? ああ、三か月後」

 割と断言的な言い方をしてから、急に心配になった。

「多分」

「多分?」

「いや、する」

「珍しいな。光希が弱気なの」

 弱気、という言葉が妙に癪に障る。

 まるで、夏依にプロポーズを断られる可能性があるようで。

「弱気なわけじゃない」

「そう?」

「ああ。ところで、Jグループの商品管理システムだけど」

「話逸らした」

「逸らしてない」

「なんで三か月? 誕生日?」

「違う。――あ」

 違わなかった。

 いや、違うのだが、あながち外れでもない。
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