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14.サレたふたりは……
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しおりを挟む三か月前――基、二か月と二十八日前。
俺は確かに、諦めかけた。
夫婦、家族の脆さに嘆き、悲しみ、怯える彼女に、愛とか約束なんて無意味だと思った。
結婚というカタチにこだわらなくても、一緒にいることはできる。
そう思うほどに、元部下は俺にとって大切な女性になっていた。
だが、夏依の父親と会って、母親と話をして、考えが変わった。
夏依をあの両親の戸籍に入れておきたくない!
今の俺は夏依にとって、世間的にはただの恋人だ。
俗に言う『何かあった時』は蚊帳の外。
それが嫌だと思った。
内縁関係なんて、自分たちが主張しなければ誰にもわからない。
俺は、名実ともに、どんな時でも、夏依に関わる全てのことに、何かしらの効力が欲しい。
夏依からのパンを届けた時、大貴にはそれを伝えた。
「お義兄さんなんて呼ぶ気はないが、俺と夏依が結婚したら、お前も家族だ」
「……夏依がOKした?」
「させるさ」
「そう……」
パンの袋を見つめて呟いた大貴は、珍しく嬉しさを表情に出していた。
「俺はお前に、認めてくれなんて頼まないからな」
「うん」
夏依の元に戻ろうと事務所のドアを開けて、そのまま振り返った。
「忘れるなよ。お前も家族になるんだからな」
「わかったって」
「やるかわかんねーけど結婚式には呼ぶし、子供ができたら伯父さんって呼ばせるし、なんならお節介な俺の親はお前も息子同然だとか言って、勝手に誕生日祝ってきたりするからな」
「嫁の兄なんて――」
「――覚悟しておけよ!」
なんの宣戦布告だがわからないが、俺はそう言い捨てて事務所を出た。
帰る途中で寄ったスーパーで、大貴からメッセージがきた。
〈覚悟するのは夏依がOKしてからだ〉
望むところだ。
三か月後にプロポーズしないと言った以上、最短でのチャンスは今日と明日。その後は、ひと月後までお預けだ。
気長にその気にさせるつもりでいた俺だが、どうやら納得できていなかったらしい。
たったひと月の『待て』ができない。
だが、それはそれで、俺と夏依のタイミングなのだと思った。というか、今だ! としか思えない。
『財産分与』だの『遺産相続』だのと遠回りをしたが、夏依からはOKをもらったわけなのだが――。
「待て待て待て待て!」
「どうしてですか? 嫌なんですか!?」
「嫌じゃないです! でも――」
「――でもじゃない! イエスかノー! ヤるかヤラれるか!」
「仕事はな? でも――」
「――また言った!」
俺の胸を涙で濡らしていた夏依が、その濡れたTシャツを引き裂く勢いで引っ張り上げている。
つまり、俺はひん剥かれているわけだ。
「落ち着け。そもそも! なんで感動のプロポーズからの流れで――」
「――相性の確認は必須事項でしょう!」
「それは十分――」
「――いいですか! これは、鬼篠が常々くどいくらい言っていたことです。現状維持ほどの悪手はない! 常に高みを目指せ! 一日として同じ日はない!」
俺はなぜ、イキッていた課長時代の言葉を大声で聞かされているのか。
しかも『くどい』とまで言われた。
両手で胸を押されて、ソファの上で仰向けに転がされると、夏依が容赦なく圧しかかってきた。
「私は、日常にも通ずると思います。いいですか? 現状、セックスの相性が良いとしても、明日には物足りなさを感じるかもしれません。『あ、またこの流れか』『なんか、それほど気持ち良くないんだよな』みたいに」
「ちょっと待て! それはどちらかと言うと俺への警告か!?」
「いえ。注意喚起です」
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