7 / 147
1.似ていて異なるもの
7
しおりを挟む打ち合わせの帰り。ランチを済ませてから会社に戻ろうと駅直結のショッピングモールを歩いていて、見覚えのある横顔を見つけた。
「あきら?」
私は手を振り、呼び止めた。
「仕事中?」
「すぐそこの小学校に行ってたの。これから戻るとこ」
あきらは児童カウンセラーとして働いている。市内の学校と教育委員会のパイプ役をしている、と前に聞いた。
私とあきらは同じ大学のサークル仲間。その名も『OLC』。O大学ルーズサークル。特に決まった何かをするでもなく、とにかくまったり何かを楽しもう、みたいなサークルと呼ぶにはおこがましい集まり。
大学を卒業してからは疎遠になっていたが、五年前にサークル仲間の大和とさなえの結婚式で再会した。それから、仲間内でも特に気の合う七人で、時々集まっている。
「千尋は?」
「打ち合わせの帰り。ランチする時間、ある?」
「あるある!」
あきらと会うのは三か月くらい振り。その時も仕事帰りにバッタリ会って、一緒に飲んだ。
私たちはすぐ近くの洋食屋に入り、私はシーフードグラタンのセット、あきらはビーフシチューのセットを注文した。
「ちょうど連絡しようと思ってたのよ。OLCの飲み会、再来週の予定を来週にしたいんだけど大丈夫?」
「今回は千尋が幹事だっけ?」
「そ。私と陸。次はあきらの番だからね?」
次回の幹事はいつも、参加者の中から決める。前回はあきらが欠席で、私の番になった。
「で? 来週の土曜は大丈夫?」
「ん。大丈夫」
「良かった。陸が急な仕事で休みが変更になっちゃったらしくてさ」
「支配人も大変だ」
陸はホテルの支配人をしていて、二年前に同じホテルでパティシエをしている奥さんと結婚した。子供が出来たからと式も上げずに慌ただしく結婚したのだけれど、籍を入れてひと月ほどで流産してしまった。
「千尋は? 相変わらず、忙しいの?」
「うん、まあね」
「男の方も……相変わらず?」
「……うん」と、私は少し歯切れの悪い返事をした。
「あの、名前が似てるって男性? 長いね」
「うん。けど、そろそろ終わりかな」
「そうなの?」
「これ以上は、ね。さすがに離れがたくなりそうで」
私が不倫をしていることを、あきらは知っている。OLCの中ではあきらだけ。
先に、飲み物とサラダが運ばれてきた。二人ともアイスコーヒーをブラックのまま、一口飲む。
「離婚、しないの?」
「さあ。聞いたことないけど……」
「けど?」
「『離婚したら一緒に暮らせるか?』って聞かれた」
つい数日前に比呂に言われたことを自分で口にすると、少し恥ずかしくなった。
比呂に求められていることを、実感してしまう。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる