【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
50 / 147
7.彼の本気

しおりを挟む


 月曜日。

 比呂とは否応なく顔を合わせる。社内恋愛の辛いところだ。

 幸い、私も比呂も分別のある大人で、ちゃんと何食わぬ顔で仕事をこなした。

 先週に引き続き、比呂の奥さんは昼休憩の少し前にやって来て、受付から内線で夫を呼び出した。

 社内では、『奥さんは復縁したがっている』と、別居終了間近の噂でもちきりだった。

 だから、というわけではないが、夜遅くに比呂が訪ねて来た時、覚悟をした。

 大きなキャリーバッグを持って現れた比呂が、私に別れを告げ、奥さんの元へと帰るのだと。

 何があったかは知らないけれど、比呂は奥さんを嫌っていたし、憎んでいた。それでも、一度は結婚するほど愛した女性ひと愛人にプロポーズを断られて、奥さんへの気持ちも変わったのかもしれない。

 それでも、仕方がない。

 一介の愛人である私には、咎める資格などない。

「ルールに補足したい」

 比呂にそう言われた時、意味がわからなかった。

 もう、ルールはいらないんじゃないの? と。

「え?」

「俺の離婚が成立するまで、俺とお前は別れない。絶対に」

 それを聞いて、噂を裏切り、比呂の離婚が決まったのだと確信した。離婚を目前に、ギリギリまで私を縛ろうとしているだけなのだろう、と思えた。ただ、素直に『うん、いいよ』と言えるほど、私は可愛い女じゃない。

「なに、それ」と、鼻で笑い、嫌な女をアピールしてみた。

 どうして私があなたの言うことを聞かなきゃいけないのよ、と言う代わり。

 けれど、比呂は私の態度にムッとするわけでもなく、真剣な表情でじっと私を見て、続けた。

「承諾してくれたら、もう結婚をせがまない」

 一瞬でも動揺してしまった自分を、殴ってやりたい。

 安心しなければならないところなのに、ショックを受けた自分がいる。

 比呂のプロポーズを断っておいて、虫のいい話だ。

「俺の離婚が成立するまででいいから、俺だけのものでいてくれ――」

 比呂が、懇願するように、必死な声で言った。

 最後の、思い出のようなものかもしれない。

 ほんのわずかな時間でも一緒にいたいと思ってくれているのなら、受け入れてもいいのではないだろうか。

 一緒に、この一年ちょっとにけじめをつけてもいいのではないか。

 私は、小さく頷いた。

 比呂が安堵の表情を見せる。

 私が、最後の時間ときまで拒絶すると思っていたのか。まぁ、そう思われても仕方がないほど突き放したのだけれど。

 ところが、そうじゃなかった。

「このルール、忘れるなよ」

「え?」

「『俺が離婚しない限り』お前は俺の女だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...