54 / 147
8.理由
1
しおりを挟む「妻――美幸って名前なんだけどさ――」
セックスで上がった呼吸がようやく正常に戻った頃、私の頭を肩に載せ、無言で髪に指を絡めていた比呂が、徐に口を開いた。
「男がいるんだよ」
そんな気はしていた。
別居した頃の比呂の様子からして、原因は比呂ではなく奥さんの方だと察してはいた。
「それも、俺と結婚する前からの付き合い」
それがバレての別居、か。
「その上、相手も既婚者」
「は――?」
私は頭の位置はそのままで、顎を上げて比呂を見上げた。見えるのは、じっと天井を見つめる横顔。
「俺はカモフラージュだったんだよ」
「なに、それ」
「笑えるよな」と言った比呂は笑っていなくて、泣きそうにすら見えた。
「笑えないわよ!」と声を荒げ、私は勢いよく起き上がった。
「意味が分かんないんだけど!?」
比呂は身体を捻り、肘を立てて掌に頬を載せた。もう片方の手でタオルケットを引き上げ、露わになった私の身体に羽織らせる。
「両親が結婚を望んでも、家庭のある男と付き合っているなんて言えるわけもなくて、勧められるままに俺と出会い、抱き合うのが苦痛でないほどには俺を気に入ったから結婚した。喜ぶ両親と、甘い新婚生活なんかに酔ってる俺を尻目に、あいつは男との関係を続けていた。で、妊娠がわかり、週数を誤魔化して俺の子だと信じさせた」
「信じさせたって――」
それじゃ、まるで――。
「流産した時に医者から週数を知らされて、俺の子じゃないとわかった。妊娠した頃の俺は、セックスどころか寝る間もないほど忙しかったし、それは美幸も同じで、二か月以上挨拶程度しか言葉も交わしていなかった。で、美幸を問い詰めたら、あっさりと白状したよ。好きな男の子供が欲しくて、俺の子として育てるつもりだったって。不倫なんかしてるくせに、生まれてくる子供には偽物でも円満な家庭を与えてやりたかったって」
なんて勝手な言い分だ。
比呂が私の腰を抱き寄せ、むき出しの胸に顔を埋めた。
「話を聞いた翌日、俺は離婚届を渡したけど、あいつは目の前で破り捨てた。で、こう言った。『親を悲しませずに、お互いに自由に遊べばいい』って。速攻で荷物をまとめて家を出たよ。女の言葉一つで、吐きそうになるなんて始めただったな」
胸に息がかかって、くすぐったい。
比呂の唇が、私の左胸の下、心臓の辺りに触れた。
「なんで今更、会いに来たの?」
「結婚式で俺がしつこく離婚したいと言ったから、親にバラされるんじゃないかと思ったんだろ。会社に来て一緒に飯を食うところを見られたりしたら、復縁するんじゃないかって社内で噂になって、俺が行動を起こせなくなると思ったらしい。まったく、甘く見られたもんだよな」
1
あなたにおすすめの小説
ボクとセンセイの秘密
七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。
タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。
一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。
なので関西弁での会話が多くなります。
ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる