【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
102 / 147
13.再会の意味

しおりを挟む

 比呂が足を組み、椅子に背を預けて、胸の前で両腕を組んだ。

 課長は困った顔をして、再び天を仰ぐ。

「内装に関しては婚約者との打ち合わせがメインでしょうから、引き受けますよ」

 本当なら、断りたい。

 きっと、あの男の顔を見る度に、過度のストレスに晒される。

 けれど、尻尾を巻いて逃げたと思われるのはもっと嫌だ。

『あの時』の、私を見下してほくそ笑むあいつの顔を思い出す。

 二度と、あんな勝ち誇った顔をさせたくない。

「相川の言うことは尤もだ。俺も、これが相川以外なら、無条件で本人の意向よりもクライアントの希望を優先させたろう。だが――」

 何を言うつもりなのかと、目をパチクリさせた。

 まさか、関係を持ったことがあるからと特別扱いされるなんて思っていない。が、課長の言い方は、比呂に誤解されても仕方がない。

「――かちょ――」

「――どっちかっつーと、お前より有川の方が無理だろ?」

「え?」

 長谷部課長の言葉で比呂を見る。

 考え込んでいるのかと思ったが、よく見ると眉間に深い皺を刻み、歯を食いしばっている。

「過去とはいえ、自分の女をそんな目にあわせた男と仕事するとか、俺でもご免だな」

「……」

 課長の言葉に思わず黙ってしまったが、ハッとして口を開いた。

「――課長!」

「有川。どうする?」

「……」

 課長が私と比呂の関係に気づいているのは知っている。が、比呂は私と課長の関係を知らない。当然、どうして知っているのかと思うだろう。

 正直、知られたくない。

「絶対に一人で対応しない、って条件付きで」

 目を伏せたまま、比呂が言った。それから、組んでいた足と腕を解き、課長に身体を向けた。

「桐生でも秋吉でもいい。とにかく、俺と一緒でない時には、誰かを同席させる。絶対に大河内と二人きりにはならないこと」

「ちょ――、何言ってるの!? そんな特別扱い、許されるわけないでしょう。それに――」

「――でなきゃ、俺は降りる。もちろん、お前もだ」

 比呂の断固とした口調に、私はたじろいた。が、すぐに反論した。

「私はともかく、有川主任は――」

「――千尋」

 長谷部課長の前で名前を呼ばれ、ドキッとした。

「俺の条件を飲むか、降りるか、だ」

 比呂が怒っているのがわかる。

 心配してくれているのも。

 けれど、私が絡まなければ、この仕事は比呂にとっては間違いなく大きな実績となる。

 比呂の邪魔をしたくない。

「桐生にもいい勉強になるからな」

 そう言うと、長谷部課長は首を回してコリをほぐした。

「相川。大河内邸の打ち合わせには、必ず有川か桐生を同行させること」

「課長!」

「事情はどうあれ、社に取って大きな仕事だ。それに、間違いなくお前にとっても有川にとってもプラスになる」

「そうですけど――っ」

「勘違いするな! お前を守ることは社の信用を守ることに繋がるから言っているんだ。まして、相手は過去に確執があった上に、父親から担当は男にしてくれと念を押されるようなバカ息子だ。隙を見せるな。だが、仕事はきっちりこなせ」

「――はい」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

処理中です...