102 / 147
13.再会の意味
5
しおりを挟む比呂が足を組み、椅子に背を預けて、胸の前で両腕を組んだ。
課長は困った顔をして、再び天を仰ぐ。
「内装に関しては婚約者との打ち合わせがメインでしょうから、引き受けますよ」
本当なら、断りたい。
きっと、あの男の顔を見る度に、過度のストレスに晒される。
けれど、尻尾を巻いて逃げたと思われるのはもっと嫌だ。
『あの時』の、私を見下してほくそ笑むあいつの顔を思い出す。
二度と、あんな勝ち誇った顔をさせたくない。
「相川の言うことは尤もだ。俺も、これが相川以外なら、無条件で本人の意向よりもクライアントの希望を優先させたろう。だが――」
何を言うつもりなのかと、目をパチクリさせた。
まさか、関係を持ったことがあるからと特別扱いされるなんて思っていない。が、課長の言い方は、比呂に誤解されても仕方がない。
「――かちょ――」
「――どっちかっつーと、お前より有川の方が無理だろ?」
「え?」
長谷部課長の言葉で比呂を見る。
考え込んでいるのかと思ったが、よく見ると眉間に深い皺を刻み、歯を食いしばっている。
「過去とはいえ、自分の女をそんな目にあわせた男と仕事するとか、俺でもご免だな」
「……」
課長の言葉に思わず黙ってしまったが、ハッとして口を開いた。
「――課長!」
「有川。どうする?」
「……」
課長が私と比呂の関係に気づいているのは知っている。が、比呂は私と課長の関係を知らない。当然、どうして知っているのかと思うだろう。
正直、知られたくない。
「絶対に一人で対応しない、って条件付きで」
目を伏せたまま、比呂が言った。それから、組んでいた足と腕を解き、課長に身体を向けた。
「桐生でも秋吉でもいい。とにかく、俺と一緒でない時には、誰かを同席させる。絶対に大河内と二人きりにはならないこと」
「ちょ――、何言ってるの!? そんな特別扱い、許されるわけないでしょう。それに――」
「――でなきゃ、俺は降りる。もちろん、お前もだ」
比呂の断固とした口調に、私はたじろいた。が、すぐに反論した。
「私はともかく、有川主任は――」
「――千尋」
長谷部課長の前で名前を呼ばれ、ドキッとした。
「俺の条件を飲むか、降りるか、だ」
比呂が怒っているのがわかる。
心配してくれているのも。
けれど、私が絡まなければ、この仕事は比呂にとっては間違いなく大きな実績となる。
比呂の邪魔をしたくない。
「桐生にもいい勉強になるからな」
そう言うと、長谷部課長は首を回してコリをほぐした。
「相川。大河内邸の打ち合わせには、必ず有川か桐生を同行させること」
「課長!」
「事情はどうあれ、社に取って大きな仕事だ。それに、間違いなくお前にとっても有川にとってもプラスになる」
「そうですけど――っ」
「勘違いするな! お前を守ることは社の信用を守ることに繋がるから言っているんだ。まして、相手は過去に確執があった上に、父親から担当は男にしてくれと念を押されるようなバカ息子だ。隙を見せるな。だが、仕事はきっちりこなせ」
「――はい」
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる