最後の男

深冬 芽以

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5 恋愛ごっこ

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「明日も仕事ですか?」

「ああ」

 私がよそう前に、智也が手を伸ばした。最初に豆腐を、次に椎茸を取った。

「平野さんは帰られたんですか?」

「ああ」

「何とかなりそうですか?」

「……どうかな」と言って、椎茸を口に入れた。

「契約書と発注書から、平野の発注ミスなのは間違いなかった。けど、取引先の担当者がインフルで休んでいるから、話が通じないんだよ。工場には事情を説明して生産を急いでもらったから、それ以上平野に出来ることはないし、帰した」

「そうですか」

 話そうか迷っていることがある。

 余計なお世話な気もして、会社では言えなかった。

 私なんかパートに言われなくても、知っているだろうし。



 でも、もし、知らなかったら……?



「あの……」

「ん?」

「明日は一人で出社ですか?」

「ああ」

「じゃあ、私も一緒に出ていいですか?」と言いながら、私はフライパンに肉と野菜を追加した。

「は?」

「明日は子供たちがいないので……」

「元夫のところ?」

「いえ。両親と一緒に妹の家に遊びに行ってるんです」

「じゃあ、泊まれんの?」

 智也の視線の先には、無造作に置かれた旅行バッグ。

「あれは……」

 張り切って泊まりに来たようで、恥ずかしい。

 正直に、自分も妹の家に行くつもりだったと言うべきだろうか。

 けれど、結局は智也の家にいる。

 しかも、明日は私も出社すると言ったばかり。

 私が返事に困っていると、智也が立ち上がった。冷蔵庫からビールを出す。

 もう一本飲むかと聞かれて、私は首を振った。

 飲みなれないビールと、智也の質問に、身体じゅうが熱く、鼓動も早い。

俺ん家ここに泊まるための荷物じゃなさそうだな。妹んとこに行くのか?」

「そのつもり……だったんですけど……」

「泊まってけよ。もう遅いし」

 可能か不可能化で言えば、可能だ。泊まりたいかと聞かれると、返事に困る。泊まりたくないかと聞かれたら、そんなことはない。



 けど、泊まるってことは……『する』かもしれない……ってことよね……?



 瞬時に今朝の記憶を辿った。



 私、今、どんな下着をつけてる?



 考えるだけ、無駄だった。

 人様にお見せできるような下着なんて、持っていない。

 実用的なベージュか黒のシームレスブラしかもっていない。ショーツはブラとお揃いのボクサータイプ。お尻がすっぽり包まれて、安心感がある。温かいし。ガードルはハイウエストの五分丈。



 とてもじゃないけど、脱げない……。

 ダメだ、帰ろう。



「あの……」

「そんなに警戒しなくても、いきなり押し倒したりしないから」

「そんなこと……」

「今はマジで疲れてるし」

 それは、確か。

「送ってく元気がないから、泊まってもらいたいだけだから」

 そう言われると、無下に断れない。

 今日は泊めてもらって、明日の仕事の後で妹の家に行けばいい。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 まさかの展開に、鼓動が回転数を上げ、しばらくそれは減速することはなかった。
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