4 / 89
1.今も好きですか?
4
*****
日本人は一生に何度セックスをするのだろう。
付き合っていた頃から和葉が生まれるまで、和輝と何度セックスをしただろう。
五才違いの私たちは、友達カップルの紹介で知り合った。が、実はそれ以前に顔を合わせていた。
私は、小さな文房具店で働いていて、その店の斜向かいのマンションに、和輝は住んでいた。
彼は私の店にペンや手帳なんかをよく買いに来ていたから、私の友達の彼氏の友達だと紹介された時、すぐに分かった。
彼は私を知らなかったが。
私は二十一歳、和輝は二十六歳だった。
彼には私が随分子供に見えていたのだろう。
由輝が言ったように、当時の私は小柄で、年上の和輝の前では緊張しっ放しだった。
友達の好意は無下にできないと、何度か二人で会った。
それが始まり。
出会ってから恋人になるまで、三か月。
その間、和輝は手を繋ぐ以上は触れて来なかった。
が、二十代後半の健全な男性ともなれば、我慢していたのだろう。
恋人になってからは、ほぼ会う度に求められていた。
ぬるくなったお風呂に浸かり、ぼうっとしていると、ドアの向こうに人影が見えた。
「お母さん、私も部屋に行くね」と、和葉。
「歯を磨いた?」
「うん。下、誰もいないから」
「わかったよー」
娘の声に、若かりし頃の思い出を追いやり、お湯から出た。
シャワーを出して、髪を濡らし、シャンプーボトルを押す。
ブシュッと気の抜けた音。
ないなら言ってよ……。
我が家では、和輝以外は一緒のシャンプーを使っている。
私の前に入ったのは和葉。
背中の真ん中まで髪を伸ばしている娘は、何度言っても使い過ぎるほどシャンプーを使う。
私はボトルを棚から下ろして、手元で何度も押した。
ブシュッ、ブシュッ、プシュッ。
私は僅かに手についたシャンプーを髪につけ、ボトルを開けてお湯を入れ、頭のてっぺんでボトルを逆さまにした。
目が痛いのは、シャンプーが目に入ったからだ。決して涙なんかじゃない。
お風呂を出て、肩より少し長く緩いウェーブの髪を乾かし、私も二階に上がった。
寝室では、和輝と由輝がベッドに入ってタブレットを見ている。
「何してるの?」
「写真見せてもらうんだ」
「何の?」
「あ! お兄ちゃん、コンパス貸して」
私の後から、和葉も寝室に入って来る。
「何してんの?」
「写真見せてもらうんだよ」
「何の?」
「お父さんにバレンタインのチョコをくれた人の!」
「私も見たい!」と、和葉もベッドに上がる。
私たち夫婦は、それぞれのベッドで寝ている。
昔は二つのベッドをくっつけていたが、私が妊娠してから離した。
「あ、この子」と、和輝が言って、子供たちがタブレットを覗き込んだ。
「わ! 可愛い」と声を上げたのは和葉。
「この人がお父さんにチョコくれたの?」と、由輝。
「でも、どうせみんなに配ったんでしょ? お返し狙いだね」と、和葉がマセたことを言う。
あなたにおすすめの小説
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
むらさきさゆり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。