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1.今も好きですか?
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しおりを挟む「ご飯が美味しいところ?」
「なんでハテナ?」
「ご飯が美味しいところ!」
「あとは?」
「一つじゃダメか?」
「ダメ!」
「ええぇーーー……」
本気で困っている声。
「もうっ! 最後にもう一回聞くからね。次!」
「まだあるのかぁ?」
まるで子供だ。
「次に、お母さんの嫌いなところ」
「嫌いなところ?」
「うん」
「それ、お父さんとお母さんが結婚した理由に関係ないだろ」
私と同じこと言ってる。
「好きなとこだけじゃバカップルじゃん」と、和葉も私の時と同じことを言う。
「嫌いなところ……」
悩んでる、悩んでる。
きっと、子供に言っていいのかとか必死に考えてるのだろう。
余計なことを言ったら私に怒られるから。
「お父さんより逞しいところかな」
「逞しい?」
「……うん」
逞しい……。
私、そんな風に思われてたんだ。
間違いじゃない。
年下の華奢で素直な私はもういない。
妻になり、主婦になり、母親になり、パート勤めもして、私は強く逞しくなった。
結婚したての頃、和輝が出張で家を空けることを寂しがっていた私は、もういない。
「あとは?」
「ないよ」
「嘘だぁ」
「お母さんにも同じことを聞いたのか?」
「うん」
「何個言ってた?」
一応、気になるのね。
「三つ?」
「なんて?」
「ナイショ」
「教えろよ」
「ナイショ!」
「和葉ぁ……」
「でも、お母さんはお父さんの好きなところもお父さんよりたくさん言ってたよ」
「え?」
驚くこと?
「あ、プロポーズの言葉は?」
「えっ!?」
「パスなしね」
「いや、それは、子供に聞かせることじゃないからなぁ」
言えるわけないわよね。
私の親に問い詰められて、流されて決めたなんて。
「宿題終わんないし~~~」
適当に答えておけばいいのに、と思った。
それが出来ないのも和輝よね。
「最後! 生まれ変わってもお母さんと結婚したい?」
「……お母さんはなんて言ってた?」
「お父さんの気持ちを聞いてるの!」
私はそっとお風呂場に移動した。
優しくて優柔不断で真面目な、私の夫。
ねぇ? あなたは今でも私を好きですか?
若い頃は無邪気に聞けたのに、今では人生を左右する問いに思える。
お風呂場の鏡に映る私は、十五年前の面影なんて少しもなくて、目尻には皺があるし、目の下は腫れぼったいし、唇に艶はないし、胸はハリもなく垂れて、お腹はメモ紙を挟めそうな段々腹。太腿に隙間もないし、お尻も垂れている。
私にも、あのチョコをくれた女性社員のように若くて可愛いと言われた頃があった。
待ち合わせの時にナンパされて、和輝が助けてくれたこともあったわね。
今では、都合のいい妄想ではないかと思える。
鏡を見ながら、髪を一束引っ張ってみる。
切ろうかな……。
最近では寝る時以外、後ろで一つに束ねているだけ。パーマをかける意味などない。
自分で決めてそうすればいいのに、何を期待してか、聞いてしまった。
「髪、切ろうかな」
いつものようにベッドでタブレットを見ている和輝に、言った。
彼はタブレットから目を離すことなく、言った。
「いいんじゃない?」
聞かなきゃ良かった。
「シャンプーも楽になるしね」とだけ言って、私は布団に入った。
夫に背を向ける。
『その髪型、可愛くて好きだな』
十五年もそんな言葉に縛られていたなんて、なんてバカなんだろう。
違うか。
私がもう、可愛くなくなったんだ。
あの女性は可愛かったな、と思った。
あの女性は、十五年経っても可愛らしかった。
ふんわりパーマが女らしくて、相変わらず痩せていて、今も和輝とお似合いだった――。
自分の髪の毛をギュッと握り、私は目を閉じた。
ねぇ? あなたは今も彼女が好きですか?
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