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3.後悔していますか?
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だって、ただの仕事関係者なら、わざわざ私に声をかけたりしない。
あなたは今、『元カノ』として来ているんでしょう?
そもそも、なぜ広田さんは元カレの妻なんかに会いに来て、聞かれてもいないの誤解だなんだと訴えるのか。
そう考えると、益々苛立ちが募る。
「あなたと和輝が一緒に暮らしている時、二人でこの店に来ていたことは憶えています。でも、彼は私と知り合った時、憶えていなかった。きっと、文房具店の店員の顔なんて見てもいなかったと思います。だから、私も言っていません。和輝は、私があなたが元カノだと知っていることも、知りません」
だから、放っておいて。夫にも余計なことを言わないで。
そういう意味を込めて冷静に説明したつもりなのだが、潤んで見えた広田さんの瞳から涙が零れ、それを美しいと思うと同時に、子供の表現を借りるとドン引きした。
勝手に乗り込んできて、勝手に泣くって、どういうこと!?
「今は、本当にただの仕事の関係者なんです。別れて二十年近くになりますし、彼が結婚していることも知っていて、だから……」
早口でまくしたて、言葉に迷って俯く。
なにが、言いたいのだろう。
私は何も誤解などしていないのに。
何を……。
ふっと、広田さんが肩に掛けたバッグの持ち手を両手でギュッと握っている、その腕が目に入った。
正確には、その手首にはめられた時計。
お揃いの腕時計をして、なにが誤解よ――。
「和輝が、浮気なんて出来る器用な人間じゃないことはわかっているつもりです。広田さんほど長い付き合いではありませんが、これでも妻なので。でも、そんな風に誤解だと言われたら、逆に疑ってしまいます」
私は、腕時計に言った。
今も二人の思い出を刻む針に、言った。
嫌味たっぷりなのは自覚している。
嫌な女だ。
それでも、言わずにいられなかった。
あからさまに見ていたから、広田さんが気づいた。
気づいて、腕をもう片方の手で隠して、深く腰を曲げた。
「すみませんでした」
綺麗なストレートの髪をなびかせて、彼女はくるりと向きを変え、店を出て行った。
二十年前は緩いパーマのふわふわの髪だった。
私は、彼女の真似をしてパーマをかけ、和輝はそれを好きだと言った。
あれから、私はあの頃の髪型のまま。
私の時間は止まったまま。
広田さんはもう、あの頃とは違うのにね……。
私は広田さんになりたかった。
和輝が愛した広田さんになりたかった。
ねぇ、和輝? 広田さんと別れたこと、後悔していますか?
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