15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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6.ひとりになりたい


「この元カノって、和輝さんが昔一緒に暮らしていた女性?」

「え?」



 どうしてそれを――?



 わかりやすく表情に出ていたのだろう。

 義母は俺の答えを聞かないまま、話し始めた。

「柚葉が二十歳くらいの頃、必ず土日に仕事を入れるようになったの。それまでは、どちらかか、両方出勤したり両方休んだりできていたのに、土日祝日は必ず仕事に行くようになって、理由を聞いたのよ。そしたら、会いたい人がいるって話してくれたの。近所に彼女と住んでるサラリーマンで、時々お店に来るって。芸能人に憧れるような感覚だったんでしょうね。彼女と並んでる姿がすごくお似合いで格好いいって言ってたわね」

 俺と広田が一緒に暮らしていた頃を見てお似合いだと思ったと、柚葉は言っていた。だが、わざわざそれ見たさに土日祝日に出勤していたほどとは知らなかった。

「しばらくして、休日が戻ったの。理由を聞いたら、彼女と別れて引っ越しちゃったからもう会えないんだと落ち込んでた」

 義母にそんなことまで知られていたとは、反応に困る。

「ようやく元気になったと思ったら、外食や外泊が増えて、彼氏でもできたのかと聞いたら、憧れていた男性ひとと付き合ってるって言うんだから、ホントびっくりよね」

 義母はケラケラ笑うが、俺は表情筋が硬直してしまっていた。

 確かに付き合い始めた頃の柚葉は、俺の休みに自分の休みを合わせていた。

 いくら個人経営の文房具店で、店長が融通を利かせてくれると言っても、彼女の性格からして言いにくかったかもしれない。

 しかも、その休みのほとんどを、俺と過ごしていた。

 大丈夫、という彼女の言葉に何の疑いも持たず、外泊もした。

 柚葉は当時二十一歳。

 いくら成人していて学生でもないからといって、俺の都合で振り回してばかりでいいはずがない。



 年上の俺がもっと気遣うべきだった。



「今更ですが……すいません」

 他に言葉がなかった。

 数年後、和葉が当時の柚葉のように恋愛に浮かれて仕事の休みを入れたり、頻繁に外泊していたら、心配になるだろう。




 そりゃ、お義父さんに『もちろん結婚を考えて付き合ってるんだろうな』とすごまれても仕方がない……。



「初めての彼氏が憧れの人だなんて、浮かれもするわよね。あ、私は『デキちゃった結婚はやめて』って言っただけよ? 私はまぁ、それもご縁かなと思えるけど、お父さんがねぇ?」

「はい……」

 順序を守れて良かった、と十五年も経ってホッとするとは。

「で? その頃の元カノと、今もお付き合いがあるの?」

 笑っていた時より随分と低い声でそう言われ、冗談ではなく心臓が止まった。

 昔話で笑っている場合ではない。

「最近、仕事の関係で再会しました」

「柚葉に浮気を疑われた?」

「いえ。それは少しも疑っていないと言われました」

「そう。じゃあ、心の浮気?」

「え?」

「今も気持ちがある、とか?」

「ありません! それは、絶対に」

 思わず声が大きくなる。

 だが、お義母さんは顔色を変えず、真っ直ぐ俺を見たまま、続けた。

「でも、和輝さんはその女性を昔のように名前で呼び、お揃いの腕時計を持っているんでしょう?」

「それも、誤解なんです」

「誤解して、柚葉が出て行った?」

「……」

 答えようがない。

 なぜなら、俺には柚葉の気持ちがわからないから。

 俺と広田が一緒にいるのを見ても、浮気を疑いはしなかったと言った。なのに、腕時計のことはひどく気にしているようだった。

 広田が会いに行っても怒りもしなかったのに、一度名前を呼んでしまっただけで出て行ってしまった。
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