58 / 89
8.今も愛していると言えますか?
2
「そう。お父さんに、お父さんと離れたいなんて言えないじゃない? だから」
葬式に行くと言って、韓国とは。
「共犯、ってことで借りか」
「多分」
「けど、本当にバレてなかったのか? 荷物とかお土産とかでバレそうじゃないか?」
「和輝、礼服がどこにしまってあるか知ってる?」
「クローゼットだろ?」
「カバーかかってる中、確認する?」
確かに、クローゼットにはカバーがかかったままのものが何着かある。
礼服だったり、畏まった時にしか着ないスーツなんかだが、中に入っているかなんて確認したことはない。
「旅行用のスーツケースの中、見ようと思う?」
思わない。
なるほど。
お義父さんはお義母さんが葬式に行くのに礼服が残されていることにも気づかず、仕事から帰ってお義母さんが帰っていたら、使っていたスーツケースの中なんて見るはずもない。もっと言えば、韓流グッズが多少増えていても、それこそ全く気付かないだろう。
「柚葉が友達の葬式に行く時は、礼服のチェックをするようにするよ」
思わず心の声が漏れ、妻が笑った。
食事を終え、海沿いの旅館に泊まるつもりだと話すと、柚葉は拒んだ。
理由は、高いから。
客室が二十もない旅館で、スタンダードな部屋でも二十畳はあり、特別室となると一泊二十万。もちろん、そんな部屋には泊まれないが、俺としては、不安にさせた妻への詫びのつもりでいたので、困った。
予約はしていないと知ると、余計に強く拒まれた。
ひとまず、洋食店の店員に聞いた、美容室に行った。
偶然にも予約のキャンセルが入ったとかで、すぐに席に通された。
柚葉は、インフルで寝込んでいた母親が美容室に行って帰ったら和葉がおかしく思うからと気にしていたが、卒業式まで日がないのは確かだし、明日、家に帰る前に美容室に行ったことにすればいいと言った。
「和輝?」
「うん?」
来るまで待っていると伝えて店を出ようとしたら、妻に呼び止められた。そして、腕を引かれて店を出る。
「どうした?」
「髪型……を変えようと思うんだけど、どう思う?」
初めて聞かれた。
柚葉は昔からずっと同じ髪型だ。
脇くらいまでの長さの、ふわふわしたパーマ。
ふわふわ……?
そのフレーズが引っ掛かる。
『昔と変わらないふわふわの髪で、スーツ姿が様になってて、格好良かった』
柚葉が広田のことをそう言ったのを思い出した。
まさか、とは思う。
だが、わざわざ俺に聞いてきたところを見ると、自惚れではないんじゃないだろうか。
思ったままに言って、いいだろうか……。
「もっと短くても似合うと思う……ぞ?」
「え?」
「首回りがすっきりしてるの……とか」
葬式に行くと言って、韓国とは。
「共犯、ってことで借りか」
「多分」
「けど、本当にバレてなかったのか? 荷物とかお土産とかでバレそうじゃないか?」
「和輝、礼服がどこにしまってあるか知ってる?」
「クローゼットだろ?」
「カバーかかってる中、確認する?」
確かに、クローゼットにはカバーがかかったままのものが何着かある。
礼服だったり、畏まった時にしか着ないスーツなんかだが、中に入っているかなんて確認したことはない。
「旅行用のスーツケースの中、見ようと思う?」
思わない。
なるほど。
お義父さんはお義母さんが葬式に行くのに礼服が残されていることにも気づかず、仕事から帰ってお義母さんが帰っていたら、使っていたスーツケースの中なんて見るはずもない。もっと言えば、韓流グッズが多少増えていても、それこそ全く気付かないだろう。
「柚葉が友達の葬式に行く時は、礼服のチェックをするようにするよ」
思わず心の声が漏れ、妻が笑った。
食事を終え、海沿いの旅館に泊まるつもりだと話すと、柚葉は拒んだ。
理由は、高いから。
客室が二十もない旅館で、スタンダードな部屋でも二十畳はあり、特別室となると一泊二十万。もちろん、そんな部屋には泊まれないが、俺としては、不安にさせた妻への詫びのつもりでいたので、困った。
予約はしていないと知ると、余計に強く拒まれた。
ひとまず、洋食店の店員に聞いた、美容室に行った。
偶然にも予約のキャンセルが入ったとかで、すぐに席に通された。
柚葉は、インフルで寝込んでいた母親が美容室に行って帰ったら和葉がおかしく思うからと気にしていたが、卒業式まで日がないのは確かだし、明日、家に帰る前に美容室に行ったことにすればいいと言った。
「和輝?」
「うん?」
来るまで待っていると伝えて店を出ようとしたら、妻に呼び止められた。そして、腕を引かれて店を出る。
「どうした?」
「髪型……を変えようと思うんだけど、どう思う?」
初めて聞かれた。
柚葉は昔からずっと同じ髪型だ。
脇くらいまでの長さの、ふわふわしたパーマ。
ふわふわ……?
そのフレーズが引っ掛かる。
『昔と変わらないふわふわの髪で、スーツ姿が様になってて、格好良かった』
柚葉が広田のことをそう言ったのを思い出した。
まさか、とは思う。
だが、わざわざ俺に聞いてきたところを見ると、自惚れではないんじゃないだろうか。
思ったままに言って、いいだろうか……。
「もっと短くても似合うと思う……ぞ?」
「え?」
「首回りがすっきりしてるの……とか」
あなたにおすすめの小説
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
むらさきさゆり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。