64 / 89
8.今も愛していると言えますか?
8
しおりを挟む
「――違う! あれは……違う!」
思い出した。
これといって欲しいものが思いつかなかった私は、和輝と街を歩いて、百貨店のアクセサリー売り場で立ち止まった。
彼氏から指輪やネックレスを買って貰う友達が羨ましくて、思わず。
けれど、私は普段からアクセサリーをつける習慣がなかったし、自分からねだっていいものかと悩んでいた。値も張るし。
ピアスならそれほど高価でないものもあるが、私は穴を開けていなかった。だから、ピアスを眺めながら穴を開けようかと考えていた。
そこで、和輝が言ったのだ。俺もお揃いの買おうかな、と。
「困ったのは、わざわざ和輝にピアスの穴を開けさせるのが申し訳なくて……」
「マジか……」
困った顔の意味を知った和輝が、私に触れていない方の手で顔を覆った。
「俺、柚葉はキーホルダー見てると思ってた」
「キーホルダー?」
「よく覚えてないけど、確か。キーホルダーならお揃いでも目立たないし、人にも見せないからちょうどいいと思ったのに、困った顔されて――」
「――あったっけ? キーホルダー」
「あった」
十七年も前の記憶は互いに曖昧で、それ以上は話が進まない。
とにかく、私は和輝とのお揃いを嫌がったわけではないとわかってもらった。
因みに、この時の誕生日プレゼントには、当時流行っていたブランドのバッグ。
人気で入手困難のそのバッグは、直営店でしか買えず、曜日も時間も関係なく突然店頭に並ぶもので、本当に偶然、その場に居合わせたのだ。
黄色い声でバッグ目がけて突進してくる女性たちに驚いた和輝が反射的にそのバッグを手に取ってしまい、引っ込みがつかなくなった。
「ピアス、開けるか?」と聞きながら、和輝が私の耳朶に触れた。
「今から? もういいわ」と言って、私は笑った。
和輝も、笑った。
「なぁ」
「ん?」
「柚葉こそ、後悔してないか?」
「何を?」
「俺と結婚したこと」
「……してない」
するはずがない。
ずっと憧れていた男性と結婚できたのだ。
私の人生の幸運の全てを使い果たしたんじゃないかってくらい、嬉しかった。幸せだった。
「良かった」と和輝が呟いた。
私のうなじを撫でていた手に力がこもる。
ゆっくりと引き寄せられ、抱きしめられた。
本当に久しぶりの、夫の腕の中。
こうして戻ってこられたことが嬉しくて、また涙が溢れた。
「愛してるよ」
耳元で囁かれ、首筋に顔を埋められる。
チュッと唇が押し付けられ、その部分が熱くなる。
最後に言われたのはいつだったか、思い出せない。
でも、いい。
こうして、聞けたから。
次に聞けるのが十五年後でも、いい。
十五年後も一緒にいられるのなら、それでいい。
「私も……愛してる」
嬉しくて、恥ずかしくて、声が震えた。
ねぇ、和葉。
プロポーズの言葉、まだ間に合う?
思い出した。
これといって欲しいものが思いつかなかった私は、和輝と街を歩いて、百貨店のアクセサリー売り場で立ち止まった。
彼氏から指輪やネックレスを買って貰う友達が羨ましくて、思わず。
けれど、私は普段からアクセサリーをつける習慣がなかったし、自分からねだっていいものかと悩んでいた。値も張るし。
ピアスならそれほど高価でないものもあるが、私は穴を開けていなかった。だから、ピアスを眺めながら穴を開けようかと考えていた。
そこで、和輝が言ったのだ。俺もお揃いの買おうかな、と。
「困ったのは、わざわざ和輝にピアスの穴を開けさせるのが申し訳なくて……」
「マジか……」
困った顔の意味を知った和輝が、私に触れていない方の手で顔を覆った。
「俺、柚葉はキーホルダー見てると思ってた」
「キーホルダー?」
「よく覚えてないけど、確か。キーホルダーならお揃いでも目立たないし、人にも見せないからちょうどいいと思ったのに、困った顔されて――」
「――あったっけ? キーホルダー」
「あった」
十七年も前の記憶は互いに曖昧で、それ以上は話が進まない。
とにかく、私は和輝とのお揃いを嫌がったわけではないとわかってもらった。
因みに、この時の誕生日プレゼントには、当時流行っていたブランドのバッグ。
人気で入手困難のそのバッグは、直営店でしか買えず、曜日も時間も関係なく突然店頭に並ぶもので、本当に偶然、その場に居合わせたのだ。
黄色い声でバッグ目がけて突進してくる女性たちに驚いた和輝が反射的にそのバッグを手に取ってしまい、引っ込みがつかなくなった。
「ピアス、開けるか?」と聞きながら、和輝が私の耳朶に触れた。
「今から? もういいわ」と言って、私は笑った。
和輝も、笑った。
「なぁ」
「ん?」
「柚葉こそ、後悔してないか?」
「何を?」
「俺と結婚したこと」
「……してない」
するはずがない。
ずっと憧れていた男性と結婚できたのだ。
私の人生の幸運の全てを使い果たしたんじゃないかってくらい、嬉しかった。幸せだった。
「良かった」と和輝が呟いた。
私のうなじを撫でていた手に力がこもる。
ゆっくりと引き寄せられ、抱きしめられた。
本当に久しぶりの、夫の腕の中。
こうして戻ってこられたことが嬉しくて、また涙が溢れた。
「愛してるよ」
耳元で囁かれ、首筋に顔を埋められる。
チュッと唇が押し付けられ、その部分が熱くなる。
最後に言われたのはいつだったか、思い出せない。
でも、いい。
こうして、聞けたから。
次に聞けるのが十五年後でも、いい。
十五年後も一緒にいられるのなら、それでいい。
「私も……愛してる」
嬉しくて、恥ずかしくて、声が震えた。
ねぇ、和葉。
プロポーズの言葉、まだ間に合う?
36
あなたにおすすめの小説
夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜
出 万璃玲
恋愛
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
「あのね、僕、弟か妹が欲しい!」
四歳の息子の純真無垢な願いを聞いて、アマーリアは固まった。愛のない結婚をした夫と関係を持ったのは、初夜の一度きり。弟か妹が生まれる可能性は皆無。だが、彼女は息子を何よりも愛していた。
「愛するエーミルの願いを無下にするなんてできない」。そう決意したアマーリアは、サンタ……もとい、夫ヴィンフリートに直談判する。
仕事人間でほとんど家にいない無愛想な夫ヴィンフリート、はじめから結婚に期待のなかった妻アマーリア。
不器用な夫婦それぞれの想いの行方は、果たして……?
――政略結婚からすれ違い続けた夫婦の、静かな「恋のやり直し」。
しっとりとした大人の恋愛と、あたたかな家族愛の物語です。
(おまけSS含め、約10000字の短編です。他サイト掲載あり。表紙はcanvaを使用。)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
セイレーンの家
まへばらよし
恋愛
病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる