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第六章 対立
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しおりを挟む『私、来月帰国するね』
桜《さくら》が二週間ぶりに電話してきて、言った。
「え? どうして急に……」
『私の誕生日、一緒に過ごそうって、賢也《けんや》くんが……』
黛《まゆずみ》……。
『勝手に決めてごめんね? けど、飛行機の予約も賢也くんがしてくれるって言うし、お姉ちゃんには迷惑かけないから』と、申し訳なさそうな声。
「大学は……大丈夫なの?」
『うん。テストが終わって研究室も来週から休みに入るから、一か月はいられそう。でね、日本にいる間は一緒に暮らそうって賢也くんが言ってくれてるんだけど、いいかな……?』
「何言ってるの? 私の部屋に――」
『お姉ちゃん。私、やっぱり賢也くんが好きなの。帰国してる間は、一緒にいたい』
スマホを持つ手に力がこもる。
「黛さんとも相談する」
『うん……。また、帰国の前に電話するね』
スマホをポケットに入れ、私は大きく深呼吸した。とても、大きく。
それから、デスクに戻り、内線電話で黛のデスクにかける。六回目の呼び出し音が聞こえて、受話器を置いた。
「営業に行ってくるわ」
沖くんに伝えて、私は階段ですぐ下の階に向かった。
黛は喫煙室で談笑していた。私は勢いよくドアを開けた。煙草の煙が気持ち悪い。
「黛さんにお聞きしたいことがあるんですけど!」
煙草を片手に、黛を含む四人の男性が私を見た。
雄大さんが私との関係を匂わせてから三日。社内で私と雄大さんが付き合っていることを知らない人はいなかった。
「いいですよ?」と言いながら、黛は煙草の火を消した。
一緒にいる男性が好奇の目で私を見る。
真由が『槇田部長が口説き倒して始まった、結婚を前提とした真剣交際』だと広報活動してくれたお陰で、私に対する冷やかしはあっても嫌がらせはなかった。
黛は上機嫌で、私を会議室に連れて行った。
雄大さんの言っていた通り、黛は何度も私と二人になるチャンスを窺っていて、私はそうならないように気を付けていた。
まさか、私から会いに来るハメになるなんて――。
けれど、背に腹は代えられない。
雄大さんには叱られるだろうけれど、仕方がない。
「私に無断で桜を帰国させようなんて、どういうつもり?」
「どうって? 聞きませんでした? 一緒に祝おうと思って。愛する婚約者の誕生日を」と、黛がいやらしく笑う。
「やめて! あんたと桜の婚約なんて、許さない!」
「お前の許可なんかいらねぇよ」と、黛が鋭い目つきで言った。
「お前が何と言おうと、桜は俺のプロポーズを受けたんだ。れっきとした婚約者だろう、『義姉さん』」
ドクンッと心臓が鈍く揺れた。
動揺しちゃダメ……。
「それに、お前も桜に婚約者を紹介したいんじゃないのか? まさか、槇田部長を『義兄さん』と呼ぶことになるなんてな。部長は知ってんだろ? あんたとの結婚に立波リゾートの社長って特典が付いてくること。でなきゃ、お前なんか相手にするはずないよな」
私以上に黛が動揺し、焦っているがわかる。今まで、しつこく言い寄ってきたけれど、ここまで敵意むき出しに罵られたことはない。
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