愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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1.合コンで彼氏と鉢合わせ

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 親友の奈都なつに頼まれてせがまれて、半ば引きずられるように行った合コンの店に、彼氏がいた。

支倉慶太朗はせくらけいたろうでっす! 二十八歳、営業部自称エース! 目標年収八百万! 夢は庭付き一軒家と若くて可愛い奥さんに可愛い子ども、真っ白いいっぬ!」

 私と奈都が背後にいることにも気が付かず、意気揚々と自己紹介した彼。

「結婚願望ある子もない子も、まずはお付き合いからお願いしまっす!」

 弾む言葉に『若い』女の子たちがくすくす笑う。


 接待……ね。


 三十分前。

 慶太朗からは確かにそうメッセージが届いた。

〈奈都に合コンの数合わせに連行されます。ただ飯食ってくる!〉

 私のメッセージに対して〈OK! 俺も接待で飯食ってくる!〉と。

 確かに、女の子たちを『接待』している。

『若い』女の子たちを。

 私と奈都が店に着いた時、慶太朗のテーブルには既にドリンクが届けられており、ちょうど乾杯するところだった。

 個室でもないのに声高らかに「かんぱ~い!」と音頭を取ったのは、慶太朗の後輩・木下きのしたくん。

 会社では、私と慶太朗が付き合っていることは公言していない。

 隠しているわけではないから知っている人は知っているだろうが、恐らく木下くんは知らない。

 同席している数名の営業部の面々も。

 知っているのは、同期で奈都の元カレの鈴原《すずはら》くんだけ。

 鈴原くんは私と奈都にすぐに気がついたが、慶太朗とは席が端と端だったために伝えられなかった。

 そして、更に残念なことに、自己紹介は慶太朗から始まった。

 鈴原くんがハラハラしながら慶太朗を見ているのが、見なくてもわかる。

「出ようか」

 奈都が耳元で言った。

 私は正面に座る男性ににこりと微笑み、首を振った。

「ごめんね、奈都の合コンを台無しにして」

「そんなのいーけど……」

 奈都の合コンは、慶太朗たちのとは違って、二対二。

 昨日までは、私の席には奈都の後輩の結実ゆみちゃんが座るはずだった。

 今日の合コンをとても楽しみにしていたのに、インフルエンザになってしまったのだ。

 で、急遽私が引きずり出された。

 だが、こうして付き合って八か月になる恋人の能天気な浮気現場に立ち会うことができたのだから、結実ちゃんには申し訳ないが感謝だ。

「お待たせいたしました」

 店員が空のシャンパングラスを私たちの前に置き、シャンパンを開け、注ぐ。

 その間にも、背後では自己紹介が進む。

 男女交互らしく、聞こえた限りでは女の子たちは二十代前半。

 ショップ店員だとか聞こえた。

「すぐにお食事をお持ちいたします」

 店員がシャンパンをクーラーに入れて、去ると、私の正面に座っている、ダークグレーのスーツにストライプの白ワイシャツ、スクエアの腕時計をしている男性がグラスを持った。

 長めの髪はパーマなのかくせっ毛なのかうねっていて、けれどチャラチャラして見えない。

「じゃあ、俺たちも乾杯しようか」

 私と奈都の様子を見ていれば、背後の騒がしい一同となにかあると、どうしたって気づくだろう。

 私はグラスを持ち、にこりと口角を上げた。

「素敵な巡り合わせに」

「乾杯」

 背後のビールジョッキがぶつかり合うより、小さくて上品な音を奏で、それぞれがグラスを口に運ぶ。
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