愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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1.合コンで彼氏と鉢合わせ

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 奈都からの事前情報によると、お相手の男性は結実ちゃんの友達の、セレブ彼氏の友達という、いわば私たちには縁も所縁もない二人で、三十代前半の実業家というやつらしい。

 もともと、結実ちゃんと結実ちゃんの友達が来るはずだったのが、友達がインフルになり、代役に鈴原くんと別れたばかりの奈都が駆り出され、結実ちゃんまでインフルになり、代役に私が駆り出されたという、お相手のお二人には何とも申し訳ない限りの惨状。

「すみません。予定の二人がインフルエンザになってしまったために――」

「――あなたが謝る必要はありません。代わりに都合のつく女性がいるならぜひ、と言ったのは俺たちの方ですし」

 頭を下げた奈都を制止してそう言ったのは、奈都の正面に座る男性。

 グレーのハイネックニットに黒のスーツを着ていて、さらっさらの髪に黒縁眼鏡。

 二人とも身なりも物腰も良く、紳士的な雰囲気と笑み。

「こんな可愛い子たちとお知り合いになれるなんて嬉しいです! ね! 支倉先輩」

「おう! 真面目に生きてきた甲斐があったよ」


 真面目……ねぇ。


 背後の声に、私はちらりと視線を向ける。

「席を替えてもらいますか」

 正面の男性に言われて、首を振る。

「いいえ」

「そうですか。あ、俺たちもまずは自己紹介をしましょうか」

 慶太朗たちのグループとは無関係なのに、つい『俺たちも』と言ってしまうのが納得なほど、背後のテーブルはうるさい。

 正面の男性がジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出すと、慣れた手つきで一枚を抜き出し、私に差し出した。ちゃんと両手で。

 同じように奈都にも名刺を渡して、名刺入れを戻す。

峰濱成悟みねはませいごです。システム開発と保守の会社で代表をしています。年は三十五。ここ一年ほど恋人はいません。結婚願望の有無も言った方がいいかな?」

 明らかに私に向けてそう言うも、皮肉っぽくはなく、どちらかと言うと私の気を軽くしようとしてくれているように感じた。

 私は首を振り「いいえ。願望なんて変わりますから」と答えた。

「そうだね。今はなくても、それを変える女性と出会う可能性もあるし」

 峰濱さんの言葉に、隣の男性が少し驚いた表情をした。そして、それに気が付いた峰濱さんに「どうした?」と聞かれて首を振る。

「いや、珍しいなと思って」

 なにが? と思ったが聞かなかった。

 彼がすぐに名刺を差し出したから。

神海吉良じんかいきらです。企業のマッチングアドバイスの会社を経営しています。峰濱と同じ三十五歳。隠すことでもないから言うけど、バツイチ。子供はなし。元妻との関係は綺麗に清算できているから、お付き合いの弊害はありません。念のために付け加えると、離婚の原因は俺の浮気やDVではないから安心して」

 合コンこういう場に慣れているのか、経営者として言葉がうまいのか、とにかく第一印象に文句なし。

 私より先に奈都が名刺を出そうとして、神海さんが手を上げてそれを拒んだ。

「悪用されないとも限らないよ?」

 勤め先の場所を聞いて「今度外勤途中に寄るね!」なんて話している慶太朗たちとは雲泥の紳士対応に、もはや同じ人間という大枠、中枠にしても男性とくくるのも申し訳なくなる。
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