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1.合コンで彼氏と鉢合わせ
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名刺を引っ込めた奈都が自己紹介する。
「草下奈都です。二十八歳。秘書課勤務。先月恋人と別れました。結婚願望……はさておき、もしその時が来たらぐだぐだ言わずに決断してくれる男性が好ましいと考えます」
奈都……。
今日の奈都は白のタイ付きブラウスに黒の膝下タイトスカートのスーツ。
仕事中はおさまりよく整えている胸まであるナチュラルブラウンのゆるふわな髪を、今はウルフカットが際立つように跳ねさせている。
かく言う私は、合コンに連れ出されるとは思っていなかったから、グレーのワイドパンツに二つボタンのジャケットという、ザ・オフィスモード。
ジャケットの下にはネイビーのVネックニットを着ているが、ネックレスもしていない地味さ。
肩までのボブの髪も、どうしようもない。
プライベートで奈都と並ぶと、更に地味なのが際立つ。
まぁ、今日は奈都の付き添いだからいーんだけど……。
奈都に目を向けると、鈴原くんと目が合った。
私は二人がどんな風に付き合い始めて、どんな風に付き合っていて、どんな風に別れたかを知っている。
それだけに、胸が痛い。
同時に、奈都の気持ちが晴れるなら、目の前の男性のどちらかが彼女に興味を持ってくれたらと思う。
とはいえ、鈴原くんの様子からして未練タラタラだ。
奈都も彼の視線には気づいているだろう。
なんだか少しやるせない気持ちで自己紹介しようとした時、背後でわっと声が上がった。
「相性九十三パーセントだって!」
「私、八十五パーセント以上って初めて見た!」
「ホント!? いや~嬉しいなぁ。小花ちゃんみたいに若くて可愛い子と相性九十三パーセントなんて!」
「私も嬉しいですぅ」
「小花ちゃんて、名前の通り小さくて花のようにこう、ぱあぁっと? 雰囲気が可愛いよねぇ」
慶太朗の鼻の下が伸びきっただらしのない声と口調が聞こえ、思わず肩眉がぴくりと動く。
「おい、慶太朗! それ以上は――」
鈴原くんが慶太朗を止める声がして、思わず彼を睨みつけてしまった。
その瞬間、ふっと場が鎮まった。
私は臆することなく、すうぅっと息を吸う。
「大熊美空です。美空って名前より大熊の方がしっくりくる性格だとよく言われます。年は二十八、名実ともに人事部の鬼主任、昨年の年収は三百八十万、目標は単身マンション購入、結婚願望はありませんが、恋人にするなら女を若さや可愛らしさで測るような度量の小さくない男がいいです。同じ年の恋人がいますが、若いお嫁さん候補をお探しのようなので、この瞬間をもって別れます。以上です」
峰濱さんも神海さんも少し驚いた表情《かお》で私を見て、でもすぐににこりと微笑んだ。
ピリついた空気が背中をくすぐる。
峰濱さんの視線がほんの少し私から逸れて、すぐに戻ってきた。
「性格についてはわからないけれど、名前にぴったりで綺麗だなと思いますよ? あ、女性の見た目をどうこう言うのは失礼かな? 美空さん」
「みそ……ら?」
背後で微かに私を呼ぶ馴染みの声がした。が、当然、私は振り返らない。
峰濱さんに「ありがとうございます。嬉しいです」と言うと、シャンパングラスを空にした。
すかさず、峰濱さんがシャンパンを注いでくれる。
「支倉さん! 私、木下さんと相性チェックしたいので、席代わってもらっていいですか?」
「え? あ、うん」
「草下奈都です。二十八歳。秘書課勤務。先月恋人と別れました。結婚願望……はさておき、もしその時が来たらぐだぐだ言わずに決断してくれる男性が好ましいと考えます」
奈都……。
今日の奈都は白のタイ付きブラウスに黒の膝下タイトスカートのスーツ。
仕事中はおさまりよく整えている胸まであるナチュラルブラウンのゆるふわな髪を、今はウルフカットが際立つように跳ねさせている。
かく言う私は、合コンに連れ出されるとは思っていなかったから、グレーのワイドパンツに二つボタンのジャケットという、ザ・オフィスモード。
ジャケットの下にはネイビーのVネックニットを着ているが、ネックレスもしていない地味さ。
肩までのボブの髪も、どうしようもない。
プライベートで奈都と並ぶと、更に地味なのが際立つ。
まぁ、今日は奈都の付き添いだからいーんだけど……。
奈都に目を向けると、鈴原くんと目が合った。
私は二人がどんな風に付き合い始めて、どんな風に付き合っていて、どんな風に別れたかを知っている。
それだけに、胸が痛い。
同時に、奈都の気持ちが晴れるなら、目の前の男性のどちらかが彼女に興味を持ってくれたらと思う。
とはいえ、鈴原くんの様子からして未練タラタラだ。
奈都も彼の視線には気づいているだろう。
なんだか少しやるせない気持ちで自己紹介しようとした時、背後でわっと声が上がった。
「相性九十三パーセントだって!」
「私、八十五パーセント以上って初めて見た!」
「ホント!? いや~嬉しいなぁ。小花ちゃんみたいに若くて可愛い子と相性九十三パーセントなんて!」
「私も嬉しいですぅ」
「小花ちゃんて、名前の通り小さくて花のようにこう、ぱあぁっと? 雰囲気が可愛いよねぇ」
慶太朗の鼻の下が伸びきっただらしのない声と口調が聞こえ、思わず肩眉がぴくりと動く。
「おい、慶太朗! それ以上は――」
鈴原くんが慶太朗を止める声がして、思わず彼を睨みつけてしまった。
その瞬間、ふっと場が鎮まった。
私は臆することなく、すうぅっと息を吸う。
「大熊美空です。美空って名前より大熊の方がしっくりくる性格だとよく言われます。年は二十八、名実ともに人事部の鬼主任、昨年の年収は三百八十万、目標は単身マンション購入、結婚願望はありませんが、恋人にするなら女を若さや可愛らしさで測るような度量の小さくない男がいいです。同じ年の恋人がいますが、若いお嫁さん候補をお探しのようなので、この瞬間をもって別れます。以上です」
峰濱さんも神海さんも少し驚いた表情《かお》で私を見て、でもすぐににこりと微笑んだ。
ピリついた空気が背中をくすぐる。
峰濱さんの視線がほんの少し私から逸れて、すぐに戻ってきた。
「性格についてはわからないけれど、名前にぴったりで綺麗だなと思いますよ? あ、女性の見た目をどうこう言うのは失礼かな? 美空さん」
「みそ……ら?」
背後で微かに私を呼ぶ馴染みの声がした。が、当然、私は振り返らない。
峰濱さんに「ありがとうございます。嬉しいです」と言うと、シャンパングラスを空にした。
すかさず、峰濱さんがシャンパンを注いでくれる。
「支倉さん! 私、木下さんと相性チェックしたいので、席代わってもらっていいですか?」
「え? あ、うん」
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