69 / 191
8.愛し合うということ
10
しおりを挟む
そう思うと、なんだか複雑だ。
日向さんと出会った時、成悟さんに相手がいなかったらどうだったのか。
考えても仕方がない。
日向さんと成悟さんはタイミングが合わなかった。
たったそれだけ。
でも、とても大切なこと。
それが『縁』だと思う。
「日向、帰った後で小暮に電話して、俺の秘書を辞めたくないと言ったらしい。スケジュールに関してはミスを認めて、チャンスが欲しいって」
「そう」
「でも、俺も小暮も彼女を秘書室に置いておくつもりはないから」
「日向さんは納得してないんでしょ?」
「みたいだけど、俺はもう日向を信じて仕事を任せる気になれない」
異動が覆らなければ、彼女は会社にい続けるだろうか。
「他に聞きたいことは?」
「え?」
「気になってることがあったら言ってほしい」
「……」
気になっていること……。
ないわけじゃない。
「ベッドに連れて行ってもいい?」
けれど、幸せな雰囲気をぶち壊したくない。
「行きたいの?」
「言わせたい?」
「言わせたいわ」
「知ってるのに?」
彼との言葉遊びは楽しい。
そして、彼も楽しんでいるのがわかる。
だから私は、もうひとつの気になっていることを口にした。
「……名前」
「ん?」
「『さん』づけに戻ってる」
ベッドでは呼び捨てだった。
「ああ……」
成悟さんは少し考えて、ニヤリと笑った。
「きみが呼んでくれたら」
「え?」
背中を預けていた寝室のドアが開き、危うく倒れ込むところだったが、成悟さんが抱きとめてくれた。
私は彼の腕をしっかり掴んで体勢を立て直す。
私の首や鎖骨にキスをする成悟さんは、楽しそうだ。
だから、というわけではないが少しだけ意地悪を言ってみる。
「コーヒーが飲みたいって言ったら?」
「いいよ、飲んでて」
言葉とは裏腹に、彼の手は私の服の中を弄る。
「飲める、なら」
下着の中に侵入してきた指に刺激され、はっと小さく息を吐く。
「成悟っ、さ――」
「なに? 美空さん」
「なんっ――」
わざと、だ。
彼は存外、意地悪らしい。
がばっと服の裾を持ち上げられると、自然と腕が上がってそのまま袖が引き抜かれる。
私もまた、彼のTシャツの裾を掴むと、持ち上げた。
「明日の朝はあなたがコーヒーを淹れてね? 成悟」
シャツの首を抜いた彼の唇にキスをすると、成悟が子供みたいに目を細めて笑った。
「美空のためなら、何杯でも」
窓の外の強風も雨音も気にならないほど、私たちはただひたすらに互いを、互いだけを求めた。
吐息、喘ぎ、肌がぶつかる音、そして、互いを求める声。
ベタだけれど、溺れそう、だと思った。
成悟の腕の中は心地よい。
三連休、私たちはマンションから出ることはなかった。
日向さんと出会った時、成悟さんに相手がいなかったらどうだったのか。
考えても仕方がない。
日向さんと成悟さんはタイミングが合わなかった。
たったそれだけ。
でも、とても大切なこと。
それが『縁』だと思う。
「日向、帰った後で小暮に電話して、俺の秘書を辞めたくないと言ったらしい。スケジュールに関してはミスを認めて、チャンスが欲しいって」
「そう」
「でも、俺も小暮も彼女を秘書室に置いておくつもりはないから」
「日向さんは納得してないんでしょ?」
「みたいだけど、俺はもう日向を信じて仕事を任せる気になれない」
異動が覆らなければ、彼女は会社にい続けるだろうか。
「他に聞きたいことは?」
「え?」
「気になってることがあったら言ってほしい」
「……」
気になっていること……。
ないわけじゃない。
「ベッドに連れて行ってもいい?」
けれど、幸せな雰囲気をぶち壊したくない。
「行きたいの?」
「言わせたい?」
「言わせたいわ」
「知ってるのに?」
彼との言葉遊びは楽しい。
そして、彼も楽しんでいるのがわかる。
だから私は、もうひとつの気になっていることを口にした。
「……名前」
「ん?」
「『さん』づけに戻ってる」
ベッドでは呼び捨てだった。
「ああ……」
成悟さんは少し考えて、ニヤリと笑った。
「きみが呼んでくれたら」
「え?」
背中を預けていた寝室のドアが開き、危うく倒れ込むところだったが、成悟さんが抱きとめてくれた。
私は彼の腕をしっかり掴んで体勢を立て直す。
私の首や鎖骨にキスをする成悟さんは、楽しそうだ。
だから、というわけではないが少しだけ意地悪を言ってみる。
「コーヒーが飲みたいって言ったら?」
「いいよ、飲んでて」
言葉とは裏腹に、彼の手は私の服の中を弄る。
「飲める、なら」
下着の中に侵入してきた指に刺激され、はっと小さく息を吐く。
「成悟っ、さ――」
「なに? 美空さん」
「なんっ――」
わざと、だ。
彼は存外、意地悪らしい。
がばっと服の裾を持ち上げられると、自然と腕が上がってそのまま袖が引き抜かれる。
私もまた、彼のTシャツの裾を掴むと、持ち上げた。
「明日の朝はあなたがコーヒーを淹れてね? 成悟」
シャツの首を抜いた彼の唇にキスをすると、成悟が子供みたいに目を細めて笑った。
「美空のためなら、何杯でも」
窓の外の強風も雨音も気にならないほど、私たちはただひたすらに互いを、互いだけを求めた。
吐息、喘ぎ、肌がぶつかる音、そして、互いを求める声。
ベタだけれど、溺れそう、だと思った。
成悟の腕の中は心地よい。
三連休、私たちはマンションから出ることはなかった。
27
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる