愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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11.元カレと上司と恋人と

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 この場にいる全員があっけに取られている中、警察官が私たちに近づいてきた。

 やはりコンビニの店員から、駐車場で女性二人が激しく言い争っている、と通報があったそうだ。

 当事者の小花ちゃんは、コンビニで慶太朗を待っていたら、日向さんが現れて言い争いになったと話した。が、大事おおごとにはしたくないと言い、警察からの注意を受けるだけで終わった。

「あのぉ……」

 警察官が乗り込んだパトカーが見えなくなると、小花ちゃんが成悟に声をかけた。

「さっきのおばさんが言ってた社長さんですよね?」

 成悟が私を見る。

 私は彼のそばに行くと、小声で「日向さん、小花ちゃんに社長を誘惑したとかなんとかって言ってたけど?」と伝えた。

 成悟は「ああ」と頷くと、小花ちゃんにニコリと微笑んだ。

「きみは俺の恋人が元カレに未練がある、なんて喚いたらしいね」

「え? あ! そうなんですぅ。慶ちゃんに抱きついてたんですよ? ひどくないです!?」

 ずずいっと成悟に身体を寄せた小花ちゃんが、胸の前で両手を組んで見上げる。

 こういう仕草でなびく男もいるのだろうけれど、残念ながら成悟はドン引きを通り越して不快感でいっぱいのよう。

「きみが美空に持って来た写真が撮影された場に俺もいたが、抱きついたのは彼女ではなくて『慶ちゃん』だ。そうだろう?」

 成悟が慶太朗を見る。

 慶太朗は素直に「はい」と言った。

尾田おだ小花さん。二度と美空に近づくな。また会社に押しかけたり、喚き散らしたりしたら、つきまとい行為の被害届を出す」


 尾田……?


 小花ちゃんの名字らしい。

 なぜ成悟が知っているのか、は聞かなくてもわかる。

「ひどい! つきまとってなんかいません! 慶ちゃんを取らないでってお願いしただけですぅ」

「仕事中に呼び出して、会社内で大声でする必要があるお願いか? 常識がなさすぎる」

「~~~っ!」

「美空はきみの慶ちゃんに恋愛感情は持っていないし、同僚としての付き合い以外に接触はしない。俺にも美空にも、二度と近づくな」

 彼の強い口調に、小花ちゃんが一歩後退る。

 さっきの日向さんへの口調といい、私も初めて見る、成悟の怒りに満ちた表情と声にドキリとした。

 が、ふいっと私に向けた表情はまるで違った。

「美空、行こう」

 いつもの穏やかな声色。

 肩を抱かれて、自然と足が前に出た。

 車を見ると、後部座席の窓が開いていて、奈都と神海さんが中から私たちの話を聞いている。

 慶太朗や蜂谷さんに見られていることに気まずさを感じつつ、成悟がドアを開けてくれた助手席に乗り込もうと腰を曲げた。

「美空!」

 背後から呼ばれて、ギョッとして振り返る。

 ギョッとしたのは、声が慶太朗ではなく蜂谷さんだったから。

「また明日な」

 両手をスーツのパンツのポケットに突っ込んでそう言うと、蜂谷さんは何事もなかったようにコンビニに向かって歩き出した。

 小花ちゃんに睨まれながら、私は助手席に乗る。

「美空、モテモテね?」

 後部座席から身を乗り出した奈都が、耳元で囁く。

「蜂谷課長も美空狙いだったかぁ」

「やめてよ、そんなんじゃないから」

 険しい表情で真っ直ぐ前だけを見て、成悟が車を発進させた。

 不機嫌だと、わかる。

 そして、わかったのは私だけでない。

 神海さんが成悟に自分のマンションに送ってほしいと言い、奈都は少し不満そうだったけれど一緒に降りた。

 奈都がどう思おうと、神海さんは奈都が好きだと思う。

 それは、鈴原くんを前にした彼の様子でわかった。
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