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11.元カレと上司と恋人と
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この後、奈都と神海さんでどんな話をするのかはわからないけれど、奈都が意地を張らなければいいなと思う。
とはいえ、私も人の心配をしている場合ではない。
ずっと無言だった成悟に話しかけたのは、神海さんのマンションを出てすぐ。
「九州って?」
成悟がちらっと私を見た。
その表情は、さっきまでの険しさはないものの、いつもの穏やかな優しい表情でもない。
「日向の新しい職場が九州なんだ」
「どうして知ってるの?」
「俺が用意した」
「新しい仕事を?」
「そう。きみを逆恨みしそうだったからね。新しい仕事と引き換えに、きみに近づかないように約束させた」
「いつそんなこと――」
「――仕事に関しては日向がマンションに来る少し前からかな。ちょっと時間がかかったけど」
どうして言ってくれなかったの? と聞こうとして、やめた。
その言葉は私への想いに溢れているのに、表情はやはり硬くて、まずはその理由からだと思ったから。
「何を怒ってるの?」
「怒ってない」
「どこに向かってるの?」
「俺のマンション」
短い返事にどれほどの不機嫌さが込められているか、わかっているのだろうか。
彼から顔を背けて窓の外を見る。
そして、窓に映る成悟を見つめながら口を開いた。
「何を怒ってるの?」
「怒ってない」
「帰ると言ったら帰してくれる?」
「……」
窓に映る彼がちらりと私を見た。
そして、ふうっと息を吐き、車を減速させて端に寄せ、停車させた。
何を言われるのかと少しドキドキするも、あえて彼を見ずに歩道を行き交う人たちを眺める。
「蜂谷課長、って?」
やはり、とは思った。
奈都があんなこと言うから……。
私は首を回して成悟を見た。
成悟も、私を見る。
不機嫌、というよりも情欲を感じさせる視線に、少しホッとして、少し嬉しくなった。
「予定通り明日と明後日は一緒にいられるの?」
「ああ」
「じゃあ、着替えを取りに行かせて」
「美空、俺の――」
「――ちゃんと話すから。でも、元カレとかそんなんじゃないのよ? あんな風に名前で呼ばれたのも初めてだし」
そう言ってから、二度目だったことを思い出した。
が、今重要なのはそれじゃない。
成悟がため息を吐く。
怒ったのだろうか、と思ったがそうではなかった。
「余裕なさすぎてカッコ悪いな」
そうポツリと呟いて、彼はハンドルを握った。
妬いてもらえて嬉しいわよ?
そう言葉にしなかったのは、私なりの打算。
「指導係だったの」
「え?」
「私を鬼主任に育てた人」
「……」
成悟は何も言わずに車を走らせた。
私のマンションまで、無言。
私も窓の外を眺めながら、蜂谷さんのことをどう話そうかと考えていた。
指導係で、元上司で、今も上司と言えば上司だけれど隣の課。
四年前のキスを話す……?
言う必要はない。
成悟だって、キスした女のことを話せと言われたら困るはず。
好きだったことは……?
それも、きっと言わずにいられるならその方がいい。
決していい気はしない。
でも……。
不倫の過去を正直に話してくれた成悟に、私はかつて好きだった男性のことをただの上司だと話して、後ろめたさを感じないものだろうか。
「コンビニ、行って来るよ」
マンションの駐車場に停めると、成悟が言った。
「食事、考えてなかった」
「ああ……」
私も、だ。
とはいえ、私も人の心配をしている場合ではない。
ずっと無言だった成悟に話しかけたのは、神海さんのマンションを出てすぐ。
「九州って?」
成悟がちらっと私を見た。
その表情は、さっきまでの険しさはないものの、いつもの穏やかな優しい表情でもない。
「日向の新しい職場が九州なんだ」
「どうして知ってるの?」
「俺が用意した」
「新しい仕事を?」
「そう。きみを逆恨みしそうだったからね。新しい仕事と引き換えに、きみに近づかないように約束させた」
「いつそんなこと――」
「――仕事に関しては日向がマンションに来る少し前からかな。ちょっと時間がかかったけど」
どうして言ってくれなかったの? と聞こうとして、やめた。
その言葉は私への想いに溢れているのに、表情はやはり硬くて、まずはその理由からだと思ったから。
「何を怒ってるの?」
「怒ってない」
「どこに向かってるの?」
「俺のマンション」
短い返事にどれほどの不機嫌さが込められているか、わかっているのだろうか。
彼から顔を背けて窓の外を見る。
そして、窓に映る成悟を見つめながら口を開いた。
「何を怒ってるの?」
「怒ってない」
「帰ると言ったら帰してくれる?」
「……」
窓に映る彼がちらりと私を見た。
そして、ふうっと息を吐き、車を減速させて端に寄せ、停車させた。
何を言われるのかと少しドキドキするも、あえて彼を見ずに歩道を行き交う人たちを眺める。
「蜂谷課長、って?」
やはり、とは思った。
奈都があんなこと言うから……。
私は首を回して成悟を見た。
成悟も、私を見る。
不機嫌、というよりも情欲を感じさせる視線に、少しホッとして、少し嬉しくなった。
「予定通り明日と明後日は一緒にいられるの?」
「ああ」
「じゃあ、着替えを取りに行かせて」
「美空、俺の――」
「――ちゃんと話すから。でも、元カレとかそんなんじゃないのよ? あんな風に名前で呼ばれたのも初めてだし」
そう言ってから、二度目だったことを思い出した。
が、今重要なのはそれじゃない。
成悟がため息を吐く。
怒ったのだろうか、と思ったがそうではなかった。
「余裕なさすぎてカッコ悪いな」
そうポツリと呟いて、彼はハンドルを握った。
妬いてもらえて嬉しいわよ?
そう言葉にしなかったのは、私なりの打算。
「指導係だったの」
「え?」
「私を鬼主任に育てた人」
「……」
成悟は何も言わずに車を走らせた。
私のマンションまで、無言。
私も窓の外を眺めながら、蜂谷さんのことをどう話そうかと考えていた。
指導係で、元上司で、今も上司と言えば上司だけれど隣の課。
四年前のキスを話す……?
言う必要はない。
成悟だって、キスした女のことを話せと言われたら困るはず。
好きだったことは……?
それも、きっと言わずにいられるならその方がいい。
決していい気はしない。
でも……。
不倫の過去を正直に話してくれた成悟に、私はかつて好きだった男性のことをただの上司だと話して、後ろめたさを感じないものだろうか。
「コンビニ、行って来るよ」
マンションの駐車場に停めると、成悟が言った。
「食事、考えてなかった」
「ああ……」
私も、だ。
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