その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

文字の大きさ
166 / 196
2章 帝国の呪い

2-73 きずなと読むか、ほだしと読むか

しおりを挟む
「、、、どちら様でいらっしゃいますか?」

 大教会の薬部屋にやってきたのは、、、誰だ?
 うーん、誰かに似ている気がするんだが、直接会った記憶はないなあ。

 厄介ごとの予感。

 複数の従者を連れて、豪華な軍服を着ている時点で察しろってことなのかもしれないが、いやー、わからないなー。ポシュかメーデがいれば誰だかわかったのかもしれないが、ここにオルド帝国の皇子たちの顔を識別できる者はおらんぞ。
 帝国民なら皇帝の顔は必ず知っている、、、らしい。
 サザさんの顔を皇帝と判断できない人がいるのは良くわからないが、それは印象が違うので仕方ないと思おう。あの豪華黒軍服を身にまとってこその皇帝なんだ、きっと。

 庶民では皇太子を知っているのは一部、その他の皇子の顔まで知っているのはごくごく一部。
 新聞に姿絵を載せていても、皇帝になるまでの皇子たちはほぼ覚えられていないと言ってもいい。
 皇子たちの名前も意外と知られてないらしい。

 現在、薬部屋にいるのは、俺とセリム、見習四人である。
 ポシュとメーデは修繕工事の現場が騒がしいので、今日はリーウセンたちとともに行動するように頼んでみたら、快く引き受けてくれた。

「この御方をどなたと心得る」

 だから、わからないから誰だと尋ねているんだが?
 全員が全員、自分を知っていると勘違いしてたら、恥ずかしい思いをするのはお前らだぞ。

「やめろ、先触れもなしに押し掛けたのは我々だ」

 先走った従者をとめたのは、皇子様。
 皇子の一人ってことは、さすがにわかるのだが。
 この真夏に豪華なマントまで羽織っているのだから。常々思っているけど、見ている方が暑いんですけど。冷房の魔法をかけているんでしょうけども、視覚的情報って重要だよね。

 非常に暑苦しい。

「失礼した。私はサザーラン皇帝の息子、第三皇子のトリステラだ」

「はあ」

「何だっ、その気の抜けた返事はっ。主人が名乗ったんだぞ。名乗り返せ」

「貴方たちは黙っていなさい」

 トリステラ第三皇子が従者どもを一蹴する。
 柔和そうな笑顔を浮かべているが、言うべきことは言うようだ。
 従者どもは納得してない表情で、言った皇子ではなく俺たちを睨みつけているが。

 名乗り返せと言ったが、俺が誰かもわからずここまで来ていたら反対に怖いのだが。

 正体不明な人物に会おうとすれば、さすがに従者か護衛がとめるだろ。
 自己紹介を求めるお前だって俺が誰かわかっていなければここまで来てないだろ。
 皇帝は従者も護衛もつけないで行動するが、皇子は足枷をつけられて行動するしかないのだろうか?
 第三皇子がここに来る理由がさっぱりわからない。

 けれど、とりあえずは。

「トリステラ第三皇子殿下、このような場までご足労いただきありがとうございます。どのようなご用件でこちらまでお越しいただいたのでしょうか」

 そもそも俺に用なら帝城で呼び出せば充分じゃないか?
 なぜわざわざ第三皇子がこの大教会までやってくる必要があったのか?
 俺の仕事の邪魔にもなるし。庶民、、、捕虜に対して優しくないよ。

 しかも、ナナキ氏を通さないとは。
 通したくない案件なのだろうか。
 通さなくても、黒ワンコネットワークでナナキ氏に瞬時に伝わっている気がするのだが。
 ナナキ氏の黒ワンコ、ナナキ氏のことが大好きだからなあ。

 帝国の密偵がこの大教会にもいるということは、この第三皇子も知らないわけがない。

「貴方に質問したいことがあるのだが、」

「帝城では難しい質問なのでしょうか」

「貴様っ、無礼なっ。この御方は第三皇子で」

「二度も言わせるな。黙れ」

 従者の一人が護衛の手によって部屋の外につまみ出されてしまった。
 一度許してもらえたからって、何度も許してもらえるとは限らない。

 会話をブチ切り続けるのなら会話自体が成り立たなくなるということに気づかないのなら間抜けだし、会話を成立させたくないのならもう少しスマートに目立たない手段でやった方が良いに決まっている。

「すまない。こちらの都合でこの場を選定した。他の者に邪魔されたくなかった」

 従者に会話を邪魔されてませんでした?
 あの従者は第三皇子が考える他の者の回し者でしたか?

「そうでしたか。仕事中ですので、手短にお願い致します」

「ああ、単刀直入に聞く。帝国の呪いの解き方を知っているのか」

 おや?
 どこからその情報が?
 普通に考えるとナナキ氏からという線が濃厚なのだが、セリムの肩にのっている銀ワンコちゃんが首をブンブン横に振っているなあ。
 キミたち、念話より早く意思疎通してない?
 銀ワンコはセリムを守っている限りは他に何をしてもらってもかまわないのだが。

 しっかし、皇帝直属精鋭部隊の一部によって呪いの鎖を試しに破壊され続けている第二皇子ならまだわかるのだが、第三皇子がそれを尋ねに来るとは。

「誰からその話を?」

「様々なところから伝え聞いたり漏れ出た話を、総合的にまとめると貴方しかいないという結論になったのだが、間違っていただろうか」

 この人、諜報員の統括してたりしてませんか。
 皇帝や皇弟は貴方には口にしてませんよね。
 総合的に情報をまとめても、俺に行きつくだろうか?

 どーんな情報をどこから仕入れていることやら。

「ならば、解呪方法をご存じの方も予測がつくのではないのですか」

「解呪方法を知っている者がいたとしても、どうしてもその者の思惑が絡みつく。知っていることと私に真実を話すこととは同じではない」

「まあ、確かに」

 けれど、皇帝だろうとナナキ氏でも普通に聞けば話しそうな気がするのだが。
 皇帝は最後の悪あがきをしているようだが。
 どんなに探しても他の解呪方法は存在しないのに。
 あの人はどういう結論を出すのだろうか。

 第一皇子である皇太子は父親が何かしているとは気づいているようだが、皇帝の仕事を押しつけられていて忙しすぎるので動けない。皇太子が介入すると絶対に解呪反対で邪魔するから、動けないのは皇帝にとって好都合だったりするのだろうけど。

「ならば、直接聞く方が正しい情報を得られる」

 それはそうなのだが。
 正しい情報を得られても、疑い続ける皇帝のような存在もいる。
 言った相手を信用しない限り、正しい情報であっても曲がった見方をしてしまうのである。

 敵国の捕虜がわざわざ相手が受け入れられるように言葉を選んで納得しやすいように話を進めてくれるわけがない。
 そこまで期待するなら馬鹿の極みだ。

 解呪方法の裏付けをいくら欲しがっても、そんなものは出てこない。
 こういうものは勘や直感みたいなものだ。
 見ていると、ああ、コレはと、ひらめく。

 解呪したら鎖が霧散するからそれでいいじゃないか、と言ってしまえるのは他国の者だからだろう。
 まあ、呪いの鎖を辿れば、普通に霊廟に辿り着くから、憶測はつくだろうけど。
 
 呪いの解呪方法なんて、はじめから呪いをかけた魔導士から答えを示されていない限り、気づかないときは絶対に気づかない。
 反対に、何で気づかないのかなあと思うほど、気づく者はあっさりと気づく。

 帝国の者たちが愚かというわけではなく、呪いを受けている者たちはたいてい解呪方法には気づかない。
 どんなにそれを望んだとしても。

 この世界の呪いなんてそんなものだ。

 俺が正しい解呪方法を示しても、帝国は自国の民しか信じてないところがあるので、この経過は仕方ないことだとも言えよう。

「トリステラ第三皇子殿下、申し訳ございませんが、俺が解呪方法を知っているかどうかの御返答も今ここですることはできかねます」

「、、、それは」

「俺はナナキ皇弟殿下には胃袋をつかまれておりますが、貴方とは初対面です。捕虜が敵国の皇子が欲しいと望む情報を素直に渡すとお考えでしょうか」

 俺の返答に第二のイキリ従者が生まれようとしていたが、トリステラ第三皇子は背中でそれを制していた。
 拷問等を考えているのなら、それは逆効果である。
 普通に帝国から逃亡することを決意するだけだ。

「確かにここはオルド帝国だが、そなたたちはリンク王国の者だったな。また改めて場を設けることは許してほしいのだが」

「ご連絡をいただければ、次の機会までは応じましょう」

 トリステラ第三皇子が帰った後、ナナキ皇弟殿下が飛んで来たのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...