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7章 愚者は踊る
7-5 特別待遇だが要求を超えることはするな ◆ビー視点◆
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◆ビー視点◆
「アレがリアム・メルクイーンかあ」
彼を部屋に案内して別れた後、ついつい呟いた。
学園長から寮にもお達しがあった。
学生が休暇に入って誰もいないとき、魔法による拡大音声で注意を促された。
今回の入学予定者について。
二学年の王子が入学するときでさえ、寮には何の連絡もなかったのに。
まあ、王子はすぐ近くの王城からの通いだからな。
ただし、あの王子には寮生活をさせろと言う声が世間では多かったようだが、すべて無視した形だ。
王子が入寮したら私たちが大変だったので、無視してくれて助かったが。
このクジョー王国でも辺境の地と言われているメルクイーン男爵領、そこの極西の砦で名高いリアム・メルクイーンが入学してくるという。
F級魔導士でありながら、ユニークスキルを持っているために入学となったということだが、誓約魔法が使えるF級魔導士だ、と追加で言われた。。。
そう、それはあり得ない。
この魔法学園に勤めている者なら、どんな仕事をしている従業員であってもわかる。
教会の神官が寄付金をせびったのだと。
貴族の出ではない従業員は、会う前から彼に好感を抱いていた。
教会の圧力に負けず、寄付金を払わない胆力があると。
貴族の出の者たちは、寄付金をケチる最低な者と映るようだが。。。
身分の違いって大きいと感じる。
ただし、貴族の出の者にも無視できない命令が出た。
国王が直々にリアム・メルクイーンが魔法学園で快適に過ごせるよう努めてほしいと連絡を入れてきたということだ。だが、リアム・メルクイーンの要求を超えることは絶対にするな、という注意も含めて言った。
つまり、言われたら要求通りやってくれ、の世界である。
貴族の出の者は戦々恐々としていたが、噂で聞く感じではそんな無理難題を吹っ掛けるような人間ではなさそうだが。
一学年上にいるクジョー王国の王子は、いつもそのリアム・メルクイーンと比較されている。
一つ年下なのに、魔物販売許可証の書類を国に通すくらい優秀。極西の砦の商品が有名になるにつれ、彼の知名度も高くなる。
王子も優秀な方だ。学年では首席である。
だが、リアム・メルクイーンと比べてしまうと、霞む。
彼は王子からすると目の上のタンコブ。
王子が極西の砦にちょっかいをかけているというのは、この王都では有名な話だ。
次期国王の器ではないと言われるのは、こういうところだ。
F級魔導士の判定はうがった見方もできる。
王子の息のかかった神官をあの街の教会に配属させ、F級魔導士だと判定させる。
そうすれば、リアム・メルクイーンは王都には来ない。
そして、自分の方が魔導士として優秀だと印象付けられる。
リアム・メルクイーンにユニークスキルがなかったのならば埋もれてしまっただけだろう。
あの王子ならそのぐらいのことはやりそうだ。
そして、学園長が散々注意するようにと言われていたのが、門番たちだ。
冒険者が来ても追い返すな。絶対に名前を聞け、丁寧な応対をしろ、と、常日頃と真逆の対応を求められたのである。
まさか、魔法学園に冒険者の格好で来るかなー、と思っていたが、悲しいことに学園長の予想は当たった。
冒険者が歩いて魔法学園に来たのである。
門番たちは格好は確実に冒険者だが、通常の冒険者とは違って彼が礼儀正しいことで、失敗をすることなく済んだ。
追い返したら、王都での次の職は見つからないと思え、と脅しまで学園長に言われていたのだから。
リアム・メルクイーンは王都では想像上の人物と言っても過言ではなかった。
噂だけが独り歩きしている。
王子より王子らしいとか、冒険者で筋肉隆々だとか、学者風だとか。
彼がここに来るまでは、従業員の中でも話題は彼のことで持ち切りだった。
男性寮に来たリアム・メルクイーンは普通の冒険者だった。
まあ、焦げ茶色の多少クセのある髪で可愛らしさが残るイケメンではあるが、C級冒険者の出で立ちと言えばその通り。
可もなく不可もなく。
街にいる冒険者と同じである。
けれど、確かに彼は冒険者なのである。
その立ち姿は紛れもなく。
そして、彼は礼儀を持ち合わせている。
平民にも普通に感謝の言葉を言える貴族の子弟は少ない。
彼らはしてもらって当然だと思うからだ。
そして、その金は自動的に親に請求されているが。
仲の良い、親しい、昔ながらの使用人には平民であっても、感謝の言葉を伝える貴族は割と少なくないらしい。
つまり、それぐらいの間柄にならなければ、感謝の言葉などありはしない。
金で動く道具としか思っていないから、食事の席でも何でも同じ立場になることはあり得ない。
家から連れてきた使用人は学生が食事する間は必ず後ろで立っているし、同じ席に座ることを絶対に許されない。
リアム・メルクイーンは普通の貴族なら嫌がるであろう第三食堂での食事を希望した。
彼は単純に時間短縮のために第三食堂を希望したようだが、厨房にいたおばちゃん料理人たちの喜びようったら半端なかった。
あら、あの子の食事姿を見ながら料理作れるなんて嬉しいわー、と表情が物語っていた。
この厨房はカウンターから食事の風景が見れるのは第三食堂だけだ。
第一食堂、第二食堂ともに配膳スタッフと連絡を取り合って料理している。
料理人として張り合いがあるということなのだろう、きっと。
仕事を片付けてから、私も第三食堂で夕食を取るために行った。
カウンターでおばちゃんたちに捕まった。
「あの子、本当に第三食堂で食べていったのよー」
「私たちにも挨拶ができるなんて、本当にいい子だわー」
「きちんと食べ終わった食器を持って来てくれるなんて、ホント素晴らしいわー」
「ごちそうさまでした、なんて貴族に言われたの、初めてだわーっ」
「お昼の厨房なんていくらでも使ってーっ、調味料も浴びるように使っていいわよーって言っておいたわ」
浴びるほどはいらんやろ。
冒険者だから食べるとは言っても、それなりにだろ。
この第三食堂は従業員用の食堂だが、昼間はやっていない。ただし、従業員によってはシフトによって夕食時間がかなり前後するので夕方は早く開けている。第三食堂は夕食の準備ができ次第、利用可能なのである。
学園の方の第一食堂、第二食堂、カフェテラス、第三食堂が開く。教職員を含む全従業員は第三食堂を利用するが、貴族の出ではない者は遠慮しており、朝食時にここで昼食用の弁当を受け取っている。
貴族の学校だから、教職員にも貴族の出は多いが、雑務は多いので平民の従業員も多い。
かなり差別されているが、給料が他よりも良いので文句を言う者もいない。
特に関わりあわなければ、幸せなのだ。
貴族に気に入られれば、もっと良い職場に行ける、と夢見ている奴も少なからずいる。
食堂では配膳を希望する者は特にその傾向が強いが、危険と隣り合わせだ。
ちょっとした失敗でも命取りとなる。
入学式にはまだ日にちがある。
学園長は新入生代表の挨拶を誰にするか悩んでいるらしい。
挨拶をするのは基本的に入学式前のテストで首席の学生である。
が、成績はダントツでリアム・メルクイーンがトップなのだそうな。。。
しかも、学園長が試験中じっくりと見ていたのでまったくの不正なし。
どうやっても超える者は現れない成績。
新入生代表の挨拶はすでに本人にお断りされているそうな。
そりゃそうだろ。魔物販売許可証を国に通すような人物だ。あのくらいのテスト朝飯前やろ。
難易度が徐々に上がっていく問題になっているが、最後の問題は無理難題と言われているほど、学生で解ける者は珍しい。
首席にならなければならない者がいるときだけ、その問題の内容が流出するとかしないとか。
家柄だけならハーラット侯爵の妹君が最有力候補だが、彼女はC級魔導士だ。そして、ハーラット侯爵家の落ちこぼれとまで言われていた人物である。
いろいろ考えながら寮の受付にいた。
学園がまだ始まっていないため、そこまでの仕事はない。
荷物を寮の部屋に運びこむのもその家の者の仕事なので、特別な仕事はないのである。
王都に屋敷がある者の場合、こちらに移ってくるのは入学式前日であることが多い。そこからが忙しくなる。
「ひっ」
息を飲んでしまった。
「あー、すいません。ただいま戻りました」
夕方、リアム・メルクイーンが血塗れで帰ってきた。今はまだ休みなので、朝から夕方まで魔の森に行っているらしい。
普通の学生は、他の学生のところに挨拶まわりするのに忙しいのだが。
「だだだ大丈夫ですかっ?」
「あー、コレ、全部魔物の返り血です。少々この地の魔物に慣れなくって。できるだけ廊下を汚さないようにしますね」
「い、いえ、大丈夫です。怪我だけは気をつけてくださいね」
彼が冒険者だということを実感した。
「アレがリアム・メルクイーンかあ」
彼を部屋に案内して別れた後、ついつい呟いた。
学園長から寮にもお達しがあった。
学生が休暇に入って誰もいないとき、魔法による拡大音声で注意を促された。
今回の入学予定者について。
二学年の王子が入学するときでさえ、寮には何の連絡もなかったのに。
まあ、王子はすぐ近くの王城からの通いだからな。
ただし、あの王子には寮生活をさせろと言う声が世間では多かったようだが、すべて無視した形だ。
王子が入寮したら私たちが大変だったので、無視してくれて助かったが。
このクジョー王国でも辺境の地と言われているメルクイーン男爵領、そこの極西の砦で名高いリアム・メルクイーンが入学してくるという。
F級魔導士でありながら、ユニークスキルを持っているために入学となったということだが、誓約魔法が使えるF級魔導士だ、と追加で言われた。。。
そう、それはあり得ない。
この魔法学園に勤めている者なら、どんな仕事をしている従業員であってもわかる。
教会の神官が寄付金をせびったのだと。
貴族の出ではない従業員は、会う前から彼に好感を抱いていた。
教会の圧力に負けず、寄付金を払わない胆力があると。
貴族の出の者たちは、寄付金をケチる最低な者と映るようだが。。。
身分の違いって大きいと感じる。
ただし、貴族の出の者にも無視できない命令が出た。
国王が直々にリアム・メルクイーンが魔法学園で快適に過ごせるよう努めてほしいと連絡を入れてきたということだ。だが、リアム・メルクイーンの要求を超えることは絶対にするな、という注意も含めて言った。
つまり、言われたら要求通りやってくれ、の世界である。
貴族の出の者は戦々恐々としていたが、噂で聞く感じではそんな無理難題を吹っ掛けるような人間ではなさそうだが。
一学年上にいるクジョー王国の王子は、いつもそのリアム・メルクイーンと比較されている。
一つ年下なのに、魔物販売許可証の書類を国に通すくらい優秀。極西の砦の商品が有名になるにつれ、彼の知名度も高くなる。
王子も優秀な方だ。学年では首席である。
だが、リアム・メルクイーンと比べてしまうと、霞む。
彼は王子からすると目の上のタンコブ。
王子が極西の砦にちょっかいをかけているというのは、この王都では有名な話だ。
次期国王の器ではないと言われるのは、こういうところだ。
F級魔導士の判定はうがった見方もできる。
王子の息のかかった神官をあの街の教会に配属させ、F級魔導士だと判定させる。
そうすれば、リアム・メルクイーンは王都には来ない。
そして、自分の方が魔導士として優秀だと印象付けられる。
リアム・メルクイーンにユニークスキルがなかったのならば埋もれてしまっただけだろう。
あの王子ならそのぐらいのことはやりそうだ。
そして、学園長が散々注意するようにと言われていたのが、門番たちだ。
冒険者が来ても追い返すな。絶対に名前を聞け、丁寧な応対をしろ、と、常日頃と真逆の対応を求められたのである。
まさか、魔法学園に冒険者の格好で来るかなー、と思っていたが、悲しいことに学園長の予想は当たった。
冒険者が歩いて魔法学園に来たのである。
門番たちは格好は確実に冒険者だが、通常の冒険者とは違って彼が礼儀正しいことで、失敗をすることなく済んだ。
追い返したら、王都での次の職は見つからないと思え、と脅しまで学園長に言われていたのだから。
リアム・メルクイーンは王都では想像上の人物と言っても過言ではなかった。
噂だけが独り歩きしている。
王子より王子らしいとか、冒険者で筋肉隆々だとか、学者風だとか。
彼がここに来るまでは、従業員の中でも話題は彼のことで持ち切りだった。
男性寮に来たリアム・メルクイーンは普通の冒険者だった。
まあ、焦げ茶色の多少クセのある髪で可愛らしさが残るイケメンではあるが、C級冒険者の出で立ちと言えばその通り。
可もなく不可もなく。
街にいる冒険者と同じである。
けれど、確かに彼は冒険者なのである。
その立ち姿は紛れもなく。
そして、彼は礼儀を持ち合わせている。
平民にも普通に感謝の言葉を言える貴族の子弟は少ない。
彼らはしてもらって当然だと思うからだ。
そして、その金は自動的に親に請求されているが。
仲の良い、親しい、昔ながらの使用人には平民であっても、感謝の言葉を伝える貴族は割と少なくないらしい。
つまり、それぐらいの間柄にならなければ、感謝の言葉などありはしない。
金で動く道具としか思っていないから、食事の席でも何でも同じ立場になることはあり得ない。
家から連れてきた使用人は学生が食事する間は必ず後ろで立っているし、同じ席に座ることを絶対に許されない。
リアム・メルクイーンは普通の貴族なら嫌がるであろう第三食堂での食事を希望した。
彼は単純に時間短縮のために第三食堂を希望したようだが、厨房にいたおばちゃん料理人たちの喜びようったら半端なかった。
あら、あの子の食事姿を見ながら料理作れるなんて嬉しいわー、と表情が物語っていた。
この厨房はカウンターから食事の風景が見れるのは第三食堂だけだ。
第一食堂、第二食堂ともに配膳スタッフと連絡を取り合って料理している。
料理人として張り合いがあるということなのだろう、きっと。
仕事を片付けてから、私も第三食堂で夕食を取るために行った。
カウンターでおばちゃんたちに捕まった。
「あの子、本当に第三食堂で食べていったのよー」
「私たちにも挨拶ができるなんて、本当にいい子だわー」
「きちんと食べ終わった食器を持って来てくれるなんて、ホント素晴らしいわー」
「ごちそうさまでした、なんて貴族に言われたの、初めてだわーっ」
「お昼の厨房なんていくらでも使ってーっ、調味料も浴びるように使っていいわよーって言っておいたわ」
浴びるほどはいらんやろ。
冒険者だから食べるとは言っても、それなりにだろ。
この第三食堂は従業員用の食堂だが、昼間はやっていない。ただし、従業員によってはシフトによって夕食時間がかなり前後するので夕方は早く開けている。第三食堂は夕食の準備ができ次第、利用可能なのである。
学園の方の第一食堂、第二食堂、カフェテラス、第三食堂が開く。教職員を含む全従業員は第三食堂を利用するが、貴族の出ではない者は遠慮しており、朝食時にここで昼食用の弁当を受け取っている。
貴族の学校だから、教職員にも貴族の出は多いが、雑務は多いので平民の従業員も多い。
かなり差別されているが、給料が他よりも良いので文句を言う者もいない。
特に関わりあわなければ、幸せなのだ。
貴族に気に入られれば、もっと良い職場に行ける、と夢見ている奴も少なからずいる。
食堂では配膳を希望する者は特にその傾向が強いが、危険と隣り合わせだ。
ちょっとした失敗でも命取りとなる。
入学式にはまだ日にちがある。
学園長は新入生代表の挨拶を誰にするか悩んでいるらしい。
挨拶をするのは基本的に入学式前のテストで首席の学生である。
が、成績はダントツでリアム・メルクイーンがトップなのだそうな。。。
しかも、学園長が試験中じっくりと見ていたのでまったくの不正なし。
どうやっても超える者は現れない成績。
新入生代表の挨拶はすでに本人にお断りされているそうな。
そりゃそうだろ。魔物販売許可証を国に通すような人物だ。あのくらいのテスト朝飯前やろ。
難易度が徐々に上がっていく問題になっているが、最後の問題は無理難題と言われているほど、学生で解ける者は珍しい。
首席にならなければならない者がいるときだけ、その問題の内容が流出するとかしないとか。
家柄だけならハーラット侯爵の妹君が最有力候補だが、彼女はC級魔導士だ。そして、ハーラット侯爵家の落ちこぼれとまで言われていた人物である。
いろいろ考えながら寮の受付にいた。
学園がまだ始まっていないため、そこまでの仕事はない。
荷物を寮の部屋に運びこむのもその家の者の仕事なので、特別な仕事はないのである。
王都に屋敷がある者の場合、こちらに移ってくるのは入学式前日であることが多い。そこからが忙しくなる。
「ひっ」
息を飲んでしまった。
「あー、すいません。ただいま戻りました」
夕方、リアム・メルクイーンが血塗れで帰ってきた。今はまだ休みなので、朝から夕方まで魔の森に行っているらしい。
普通の学生は、他の学生のところに挨拶まわりするのに忙しいのだが。
「だだだ大丈夫ですかっ?」
「あー、コレ、全部魔物の返り血です。少々この地の魔物に慣れなくって。できるだけ廊下を汚さないようにしますね」
「い、いえ、大丈夫です。怪我だけは気をつけてくださいね」
彼が冒険者だということを実感した。
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