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7章 愚者は踊る
7-6 質問会
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学園が始まる前に、冒険者として様々なことをやっておかなければならない。
始まったら、基本的に夜と休日だけの活動の冒険者になってしまうのだから。
「リアムー、今日のお弁当持ったー?」
朝なのに、寮の部屋にクロがいる。
シロ様怒ってないかな?
いてくれるのは、非常に心強いが。
「魔の森に慣れたら、あそこで料理も作れるといいな」
魔の森は魔の大平原と勝手が違う。
平原と森、多少は被る魔物もいるので、全然違うというわけではないが、木々による見通しが悪い分だけ勝手が悪い。
すべては慣れだろう。慣れた頃には二年が終わっているという可能性もなくはないが。
俺の攻撃魔法は魔の大平原でもほとんど意味をなさなかったので、特に魔法が効かない魔物がいても問題ない。
魔法学園に着いた初日、夕食を食べ終わった後、冒険者ギルドに向かった。
どこの冒険者ギルドも朝と夕方が混むと聞いていたが、受付カウンターは夜の時間も混雑している。
さすがは王都。冒険者も多い。
「こんばんは。冒険者移転の届け出をお願いしたいのですが」
「はい、用紙はこちらです。ご記入お願いします」
俺は必要事項をさっさと書く。
「これでよろしいでしょうか」
「、、、はい、ありがとうございます。冒険者プレートをご提示ください」
首元の銅色の冒険者プレートに、職員が魔道具を当てる。
「C級冒険者リアム・メルクイーンさん、確かに承りました。王都での活動を歓迎いたします。何かご質問はございますか」
「冒険者が移動して初めての土地の場合、冒険者ギルド持ちで上級冒険者に一時間ほどお時間を頂いて質問等ができる制度があると聞いたのですが」
「あ、はい、確かにあります。あまり活用されてないのですが、ご利用されますか?」
「はい、是非」
すぐさま書類を出してきた。
記入していると。
「リアムさんはC級冒険者なので、A級もしくはB級冒険者の方にご対応をお願いします。手配にお時間がかかる場合も、、、あっ、ゼンさーんっ」
職員が買取カウンターにいた冒険者の男性を大声で呼んだ。
「何だ?デートのお誘いか?」
「ある意味、こちらの方が」
職員さんが俺を見た。
ある意味ね。
周囲の人も怪訝そうな表情になったじゃねえか。
きちんと説明してね。
「こちらの方が今日から王都で活動してくれることになったのですが、一時間ほど上級冒険者に質問等ができる制度があるんですけど、ゼンさん、A級冒険者だし、ちょうど良いかなーと思いまして」
「質問?俺のスリーサイズでも聞きたいのか?」
ニヤリと笑う冒険者。
「いえ、魔の森の情報を主に聞きたいのですが」
「冗談だから、まともに返さないでくれる?お兄さん悲しくなるよ」
「お兄さん、」
プッと笑ったのは、冒険者ギルドの職員だ。
「あっ、ひでえ、心が折れた。受けないぞ、俺」
「あっ、そう言わずに。よっ、自称お兄さんっ、太っ腹なところが見てみたいっ」
軽口を叩ける仲、そういう冒険者だから、この職員も頼むのだろう。
「よろしくお願いします」
「おっ、じゃあ、仕方ねえな。どこで質問会やるんだ」
「応接室をお貸しします。お茶くらいは出しますよー」
「この時間なら酒を出してくれるとありがたいんだけどな」
「冒険者ギルドでは酒は出しませんー。質問会の間にゼンさんたちの今回の買取金額を出しておきますのでよろしくお願いしまーす」
この冒険者ギルドの中では暗い表情の冒険者も少なくないが、こういう明るい調子の職員がいることによって救われる部分もあるのだろう。
俺たちはこの職員に応接室に通された。
ここの応接室に備え付けられているソファや棚等の家具は良いものだ。
貴族等に利用する部屋だろうか?
俺がこの部屋に入れるのはこのゼンさんがA級冒険者で冒険者ギルドからも認められているからかもしれない。
「お前も横に座るのかよ」
ゼンさんの隣に先程の職員も座った。
「ゼンさんがいい加減なことを新しい冒険者に吹き込まないように見張り役でーす」
「都合のいい休憩時間だと思ってねえだろうな」
「ほほほほほ、そんなことは露ほども思っておりません」
「きちんと俺の目を見て言ってごらん」
「信じてー、ゼンさーん」
おめめキラキラっの技を発動する職員さん。
「、、、さて、この応接室は俺もあんまり入ったことがねえけど、会議室とか埋まっていたのか?」
流したな。
「いろいろと予約とかあるんですよー」
「そうなのか?まあ、こういう応接室は依頼人や関係者が貴族でもねえと使わせてくれない。いつも使えるとは思わねえことだ」
ああ、俺も貴族の家の人間でしたね。。。すっかり忘れてました。魔法学園に入学しながら、失念する。。。
俺の冒険者プレートには身分も登録されている。メルクイーン男爵家三男とでも入っているはずだ。
一応、冒険者ギルド職員に気を使われたということか。
「C級冒険者ということだが、お前さんはどこで活動していたんだ?」
「あ、俺はリアム・メルクイーンです。今まで魔の大平原で活動してました」
「、、、え?俺の指導なんている?」
ゼンさん、職員さんに真顔で聞かないでください。
基本的に魔の大平原の魔物は魔の森よりも強いとされている。ただし、今は活動場所で魔物のランク分けがきちんとされているので、砦の近くは魔の森ほど危険ではないだろう。
「今回は初心者冒険者ではないので、ゼンさんの指導ではありません。質問会でーす」
「あ、そういえばそうだった。双剣を腰に携えているってことは魔導士じゃねえな」
「一応、F級ではありますけど」
「うん、魔導士じゃねえな。魔の大平原との大きな違いというと、、、魔の森も奥地がわからないほど広いが、東の門からある程度離れたところの魔物でも魔法が効かない。コレは魔法学園がこの地に昔からある弊害だ。魔法をガンガン飛ばしていたら、魔物も進化する。それでも戦い方がないわけじゃねえが、東の門辺りの魔物は魔法が効かないと思って戦った方が良い。魔法のスクロール等も持っていても無駄にするな。もったいないからな」
「俺は攻撃魔法が使えないので、攻撃自体は問題なさそうですね」
「リアムは双剣使いだろ。辺境伯に憧れた口か?あの英雄譚はこの国では有名だからな。王女との悲恋、この国の西の端で貴方のために戦い続けますと言って、魔の大平原を抑えた辺境伯が双剣を使っていたからなー」
嬉しそうに話すゼンさんも辺境伯に憧れているのか。
横にいる職員の今の顔はゼンさんから見えていないようだが、あちゃーという顔をしている。
そりゃ、職員に身分もバレているのなら、俺が辺境伯の領地であったところを管理している男爵家の人間であることも絶対に知っている。
双剣使いということは、辺境伯の双剣をそのまま使っていると見るだろう。
そもそも、辺境伯の双剣は魔剣である。使える状態で後世まで残っていると思うのが普通。
憧れと言うよりも、そのまま使った方が良い高性能な武器なのである。
が、こう答えておいた方が角が立たない。
「ハイ、アコガレデスネ」
「何でカタコト?魔の森における魔物の出没地域は毎日掲示板に貼りだされている。C級冒険者ならそこまで奥地に行かないんだろ?それなら、掲示板の情報で充分だが、魔の森では東の門付近でもかなり強い魔物が現れるときがあるから、掲示板は毎日確認してから入った方が良い。」
俺は奥地までは行かない、というより行けない。
平日は毎日授業があるからな。。。
毎日、帰って来なければならない。日帰りできる距離までしか進むことができない。
休んでいいかな?欠勤、、、じゃなかった欠席をし続けると留年とかあるのかなー?成績良ければ飛び級とかないんですかね?一年で卒業できる制度とかないんですか?ないだろうけど。
授業に耐えられないほどの怪我や病気なら自主退学もできるかもしれないが、元気に魔の森に通ってたら嘘だとバレるな。
この国って、特に冒険者にとって学歴って必要ないからねえ。魔法学園卒業って特に必要のない学歴だ。
「そういや、魔の森は冒険者の他に魔法学園の学生も入れると聞きましたが」
「通常、ダンジョンは冒険者しか入れないが、魔の森は国王の管理下だ。ただし、あまりにも貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが死んだ時代があったために、教師等の指導者がいないとヤツらは入れないことになっている。ただしっ」
ゼンさんが間をためた。
「冒険者として登録する学生もいる。そいつらは数人で魔導士だけで行動しているが、絶対に助けるな。報酬を交渉して成立したはずのものでも貴族だというだけで反故するヤツらだ。相手にするだけ馬鹿を見る」
ゼンさんの目は本気だった。
魔法学園の学生はどれほどの恨みを冒険者たちから買っているのだろう。
始まったら、基本的に夜と休日だけの活動の冒険者になってしまうのだから。
「リアムー、今日のお弁当持ったー?」
朝なのに、寮の部屋にクロがいる。
シロ様怒ってないかな?
いてくれるのは、非常に心強いが。
「魔の森に慣れたら、あそこで料理も作れるといいな」
魔の森は魔の大平原と勝手が違う。
平原と森、多少は被る魔物もいるので、全然違うというわけではないが、木々による見通しが悪い分だけ勝手が悪い。
すべては慣れだろう。慣れた頃には二年が終わっているという可能性もなくはないが。
俺の攻撃魔法は魔の大平原でもほとんど意味をなさなかったので、特に魔法が効かない魔物がいても問題ない。
魔法学園に着いた初日、夕食を食べ終わった後、冒険者ギルドに向かった。
どこの冒険者ギルドも朝と夕方が混むと聞いていたが、受付カウンターは夜の時間も混雑している。
さすがは王都。冒険者も多い。
「こんばんは。冒険者移転の届け出をお願いしたいのですが」
「はい、用紙はこちらです。ご記入お願いします」
俺は必要事項をさっさと書く。
「これでよろしいでしょうか」
「、、、はい、ありがとうございます。冒険者プレートをご提示ください」
首元の銅色の冒険者プレートに、職員が魔道具を当てる。
「C級冒険者リアム・メルクイーンさん、確かに承りました。王都での活動を歓迎いたします。何かご質問はございますか」
「冒険者が移動して初めての土地の場合、冒険者ギルド持ちで上級冒険者に一時間ほどお時間を頂いて質問等ができる制度があると聞いたのですが」
「あ、はい、確かにあります。あまり活用されてないのですが、ご利用されますか?」
「はい、是非」
すぐさま書類を出してきた。
記入していると。
「リアムさんはC級冒険者なので、A級もしくはB級冒険者の方にご対応をお願いします。手配にお時間がかかる場合も、、、あっ、ゼンさーんっ」
職員が買取カウンターにいた冒険者の男性を大声で呼んだ。
「何だ?デートのお誘いか?」
「ある意味、こちらの方が」
職員さんが俺を見た。
ある意味ね。
周囲の人も怪訝そうな表情になったじゃねえか。
きちんと説明してね。
「こちらの方が今日から王都で活動してくれることになったのですが、一時間ほど上級冒険者に質問等ができる制度があるんですけど、ゼンさん、A級冒険者だし、ちょうど良いかなーと思いまして」
「質問?俺のスリーサイズでも聞きたいのか?」
ニヤリと笑う冒険者。
「いえ、魔の森の情報を主に聞きたいのですが」
「冗談だから、まともに返さないでくれる?お兄さん悲しくなるよ」
「お兄さん、」
プッと笑ったのは、冒険者ギルドの職員だ。
「あっ、ひでえ、心が折れた。受けないぞ、俺」
「あっ、そう言わずに。よっ、自称お兄さんっ、太っ腹なところが見てみたいっ」
軽口を叩ける仲、そういう冒険者だから、この職員も頼むのだろう。
「よろしくお願いします」
「おっ、じゃあ、仕方ねえな。どこで質問会やるんだ」
「応接室をお貸しします。お茶くらいは出しますよー」
「この時間なら酒を出してくれるとありがたいんだけどな」
「冒険者ギルドでは酒は出しませんー。質問会の間にゼンさんたちの今回の買取金額を出しておきますのでよろしくお願いしまーす」
この冒険者ギルドの中では暗い表情の冒険者も少なくないが、こういう明るい調子の職員がいることによって救われる部分もあるのだろう。
俺たちはこの職員に応接室に通された。
ここの応接室に備え付けられているソファや棚等の家具は良いものだ。
貴族等に利用する部屋だろうか?
俺がこの部屋に入れるのはこのゼンさんがA級冒険者で冒険者ギルドからも認められているからかもしれない。
「お前も横に座るのかよ」
ゼンさんの隣に先程の職員も座った。
「ゼンさんがいい加減なことを新しい冒険者に吹き込まないように見張り役でーす」
「都合のいい休憩時間だと思ってねえだろうな」
「ほほほほほ、そんなことは露ほども思っておりません」
「きちんと俺の目を見て言ってごらん」
「信じてー、ゼンさーん」
おめめキラキラっの技を発動する職員さん。
「、、、さて、この応接室は俺もあんまり入ったことがねえけど、会議室とか埋まっていたのか?」
流したな。
「いろいろと予約とかあるんですよー」
「そうなのか?まあ、こういう応接室は依頼人や関係者が貴族でもねえと使わせてくれない。いつも使えるとは思わねえことだ」
ああ、俺も貴族の家の人間でしたね。。。すっかり忘れてました。魔法学園に入学しながら、失念する。。。
俺の冒険者プレートには身分も登録されている。メルクイーン男爵家三男とでも入っているはずだ。
一応、冒険者ギルド職員に気を使われたということか。
「C級冒険者ということだが、お前さんはどこで活動していたんだ?」
「あ、俺はリアム・メルクイーンです。今まで魔の大平原で活動してました」
「、、、え?俺の指導なんている?」
ゼンさん、職員さんに真顔で聞かないでください。
基本的に魔の大平原の魔物は魔の森よりも強いとされている。ただし、今は活動場所で魔物のランク分けがきちんとされているので、砦の近くは魔の森ほど危険ではないだろう。
「今回は初心者冒険者ではないので、ゼンさんの指導ではありません。質問会でーす」
「あ、そういえばそうだった。双剣を腰に携えているってことは魔導士じゃねえな」
「一応、F級ではありますけど」
「うん、魔導士じゃねえな。魔の大平原との大きな違いというと、、、魔の森も奥地がわからないほど広いが、東の門からある程度離れたところの魔物でも魔法が効かない。コレは魔法学園がこの地に昔からある弊害だ。魔法をガンガン飛ばしていたら、魔物も進化する。それでも戦い方がないわけじゃねえが、東の門辺りの魔物は魔法が効かないと思って戦った方が良い。魔法のスクロール等も持っていても無駄にするな。もったいないからな」
「俺は攻撃魔法が使えないので、攻撃自体は問題なさそうですね」
「リアムは双剣使いだろ。辺境伯に憧れた口か?あの英雄譚はこの国では有名だからな。王女との悲恋、この国の西の端で貴方のために戦い続けますと言って、魔の大平原を抑えた辺境伯が双剣を使っていたからなー」
嬉しそうに話すゼンさんも辺境伯に憧れているのか。
横にいる職員の今の顔はゼンさんから見えていないようだが、あちゃーという顔をしている。
そりゃ、職員に身分もバレているのなら、俺が辺境伯の領地であったところを管理している男爵家の人間であることも絶対に知っている。
双剣使いということは、辺境伯の双剣をそのまま使っていると見るだろう。
そもそも、辺境伯の双剣は魔剣である。使える状態で後世まで残っていると思うのが普通。
憧れと言うよりも、そのまま使った方が良い高性能な武器なのである。
が、こう答えておいた方が角が立たない。
「ハイ、アコガレデスネ」
「何でカタコト?魔の森における魔物の出没地域は毎日掲示板に貼りだされている。C級冒険者ならそこまで奥地に行かないんだろ?それなら、掲示板の情報で充分だが、魔の森では東の門付近でもかなり強い魔物が現れるときがあるから、掲示板は毎日確認してから入った方が良い。」
俺は奥地までは行かない、というより行けない。
平日は毎日授業があるからな。。。
毎日、帰って来なければならない。日帰りできる距離までしか進むことができない。
休んでいいかな?欠勤、、、じゃなかった欠席をし続けると留年とかあるのかなー?成績良ければ飛び級とかないんですかね?一年で卒業できる制度とかないんですか?ないだろうけど。
授業に耐えられないほどの怪我や病気なら自主退学もできるかもしれないが、元気に魔の森に通ってたら嘘だとバレるな。
この国って、特に冒険者にとって学歴って必要ないからねえ。魔法学園卒業って特に必要のない学歴だ。
「そういや、魔の森は冒険者の他に魔法学園の学生も入れると聞きましたが」
「通常、ダンジョンは冒険者しか入れないが、魔の森は国王の管理下だ。ただし、あまりにも貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが死んだ時代があったために、教師等の指導者がいないとヤツらは入れないことになっている。ただしっ」
ゼンさんが間をためた。
「冒険者として登録する学生もいる。そいつらは数人で魔導士だけで行動しているが、絶対に助けるな。報酬を交渉して成立したはずのものでも貴族だというだけで反故するヤツらだ。相手にするだけ馬鹿を見る」
ゼンさんの目は本気だった。
魔法学園の学生はどれほどの恨みを冒険者たちから買っているのだろう。
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