能力と呪いの先の未来へ

煙硝 -エンショウ-

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第1章 崩壊の序曲

運命の歯車

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他人に粉々にされた哀しい過去を持つ彼は自分が壊れないように、いつの間にか現れた幻聴や幻覚を利用して新たな人格を作り出した。それはかつての彼の「周りにとって都合のいい部分」を集めた人格だった。それは彼の優柔不断だったところ、優しいところ、愛想があるところ。それ以外の我儘な部分や怠惰な部分を元の人格だけに集中させることで、元の人格は引っ越し先の惨状に触れなくて済み、周りの人間は彼を利用できる存在としたため、好都合だったのだ。そして2つ目の人格は体の左半身の感覚を支配して、引っ越し先の記憶だけを保持した。なのでかつて詳しかった電車の事や元いたところの事、バスの種類や元いた街でのバスの乗り方すらも覚えてないのだ。その代わりに元々惨状ともいえる引っ越し先の記憶だけ保持しているため比較対象が無くなり、その惨状が当たり前ととらえる事が出来る。さらに2つ目は情報収集のための目的もあった。1度だけ彼は元いた街に行って、わずかに残った彼の純粋な心を置いて行った。これ以上廃墟の呪いで侵食されないように。それだけでは社会で生きていけない為、それまでの悪意に染まった2つの人格に代わる新たな人格を作り出すことにした。置いて行った1つ目の一部を組み合わせて純粋な子供の頃を再現できる体に。つまり1つ目の傀儡を作るわけだ。
そして彼が元いた場所に帰った時、3つ目が出来上がった。1つ目の腐った部分と2つ目は島と共に消え去った。島が消えた後、人間は神の存在を無意味に信じ始めた。神などこの世にはいない。この事件を機に金を稼ごうとした協会や宗教団体もいたが、1ヶ月もしないうちに施設は消え去り、信者も神官もどきも原因不明の死を遂げた。そのうちにその事件は忘れ去られて、彼の存在に気付かぬまま事件の究明はお蔵入りとなった。

その頃少年は事件の時に最初の2つの人格と破壊用の素体が損傷したためどちらとも破棄し、普通じゃない小学1年生になっていた。彼は神童として地元では名を馳せていた。250年前の人間の生活や事件、歴史を紹介できるほかにも大学受験も余裕なレベルの能力。それはかなりすごかった。それでもやはり一番楽しいのは友達と遊ぶことだったのだ。その少年は活動していた時間で言うとすでに23年生きているし、生まれたのは256年前になるが、やはりこの街が、この素晴らしい友達と素晴らしい景色が一番大好きだったのだ。時が流れても変わらない「好き」は彼の心を育てていった。彼を養う者も、クリスマスプレゼントもないし、誕生日なんか忘れていたが、それでもその街にいられる事だけが幸せだったのだ。そして親もいない彼に警察は関わらなかった。いや、彼の能力が故に関われなかったのだ。警察が関わらない、そして彼は昔のように純粋に遊ぶだけ。幸せなこの上なかった。みんなが普通と言った生活でも、無知な自分が不幸だと言った生活でも、今の彼にとってはお金が無限にあって世の中を動かす力がないとしても幸せだったのだ。それを壊せる者はもういない。彼の分身が、彼の240年前を再現した分身が彼を守ってくれるから。無限の幸せと、限りない平和と、終わらない小学生の日々は彼を満たしていき、いつの間にか彼の心身に染みついていた怨霊は消えて、どこまでも純粋な男の子になっていた。そして40年経って、彼は言った。
「今僕はすっごい幸せだね。だから、ずっとこのままでいよう。」
彼は素敵な夢の中に入った。そのまま彼のその後は分身に託された。
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