暗殺者、時空間の神になる?

レクス

文字の大きさ
2 / 3

プロローグ

しおりを挟む
ハジメ無次ムツギ
世に紛れる暗殺一家、元家の長男
それが、彼だ

容赦無し、全ての情を捨てた彼ら
知る者からすれば、恐怖の象徴
お得意様も、依頼があれば自身の利益関係なく殺害
屈強な防衛機構、意味を為さず

「ハジメー!!!」

元気良く声を掛けるのは、綾崎 叶
学校中で大人気の美少女で有名だ
彼女を彼は睥睨する

「煩い、近寄るな」

「ムゥ…いつもいつも辛辣だなぁ、少しは仲良くしようよ」

「断る」

「ムググググ」

颯爽と歩み去る彼
一切の情を捨てた彼には、どんな美貌も愛嬌も届かない
殻に閉じこもっているのではない、捨てたのだから
情が消滅しているのだから、届く筈も無い

彼は、学校では影は薄い所か…無い
彼女だけは唯一、彼に話し掛ける
普通なら羨望や嫉妬の目に晒されるが、それさえ無い
そこまでして、1人前 それが彼の家だ

唯、影を薄め他人と会話しない
それでは逆に目立つ、存在が浮いてくるのだ
そう、避けられているだけ
『避けられる』という事は、認知されている事になる
常に脳裏に存在する状況では、情報が漏れるリスクが微量でも付き纏う

だが、どうだ
避けられもしない、彼は認識すらされていないのだ
居なくなっても、名簿から名が消えても気付かれないだろう
一人の少女を除いて

「無事帰還、お疲れ様です」

「只今戻りました」

「直ぐに夕食です、支度してください」

「承知しました」

母親との会話も、これだ
師弟関係と言え信頼も何も無い、親子の愛着さえも
それが、この家だ

薄暗い室内に、食器と皿の音が響く

「アレスコード002 ミュンテスク ゼビリス ウィブス」

毎日、変更される暗号
それによる会話、徹底した盗聴阻害
帰宅時の挨拶も情報交換の場、様々な暗号が用いられている
その全てが、毎日 変更される
不規則に変更される、それはまるで解読不可

今の父親が放った5節だけで、暗殺対象と暗殺執行者が決まる
実行は、明日
執行者は、無次だ

次の日、放課後
無次は靴箱を開ける、中には手紙が入っている
この時代にして、恋文か
暗殺者という時点で、彼は言えない立場な訳だが…

普通の者ならば興奮し慌てふためくか、歓喜に打ち震えるか
だが、彼は今日 任務だ
無駄な時間を取るほど阿呆では無い

「やっぱり捨てると思った、着いて来て?」

彼女だ
まぁ、彼の靴箱に入っている時点で彼女しかないのだが

「断る」

「じゃあ、ここで言っちゃう 好き、付き合って」

「断る」

足音も無く、彼は歩み去ろうとする
その彼を、止める

「だろうね、理由聞いていいかな?」

「醜い、それだけだ」

人に向けるにしては、相当酷い言葉だろう
現に、醜女ブスと読むのだから
憤怒や嫌悪は無い、ただ単に邪魔
それでも暗殺者からすれば拒絶する十分な理由だ

今度こそ歩み去る無次
その後ろ姿を見送り届けるのは1人の少女
涙は無い、だが そこには強い悲しみと複雑な何かが絡み合っていた

「行ってくる」

「無事を祈ります」

逢魔が時、殆どの人間が寝付く魔の蔓延る時間
冷たく刺さる外気の中、闇夜に融ける1つの影
誰にも察知されること無く、進んでいく

監視カメラの映像にさえ写ることは無いだろう
そこまで完成された、殺し
常に潜むのが暗殺なのだ、移動過程も暴かれる訳にはいかない

豪邸、その一言に尽きる家
住宅街とは言え高級住宅街ではない、此処では大いに目立つ

高感度侵入者感知装置、最先端防犯鍵、音響性防弾硝子
様々な防衛機構でさえ無意味だ

任務完遂に一切の余念無き彼ら暗殺一家は、どんな壁も通り抜ける
そんな精鋭達の頂点エース、それが無次
彼の前では、爆発物無しでは敵わない

否、それを使わせる暇も与えない
本当に彼を仕留めたいなら、自爆覚悟しかないだろう
だが、暗殺一家は実力主義
自爆の意図さえ察知し、別の3流暗殺者でも仕向ける

それほどまでに重宝される彼は、正しく無敵
悲鳴も断末魔も許されぬ音無き確殺を繰り返す
寝具に横たわる要人を殺す、素人でも出来る簡単な事だ

一瞬で屋敷は血に染っていく
最後の一室、彼は内部の人間に悟られもせず侵入する
未だ目を覚ましている要人の隙を狙う

彼の戦闘能力で言えば、目の前の少女1人くらい悲鳴も許さず殺せるだろう
だが、彼は徹底して慎重だ
常に疑いを掛け、確信を得るまで行動は起こさない

今回は、別の要素から隙を狙うという建前で潜んでいるだけかもしれないが

「ハジメ君、居るんでしょ?」

少女が、ふと呟く
潜んでいた影は、虚空から姿を見せた

「私、殺されるんだね」

「そういう依頼だ」

そう今回の標的は、彼女の屋敷に居る人間の抹殺
使用人なども見境無しに全員殺せ、という依頼だ

「少し、お話しない?」

「断る」

「…最後まで冷たいなぁ~」

彼の身姿が霞む
次の瞬間、彼女の左胸に風穴が穿たれる
赤黒い血液が負傷に気付いたかのように数瞬遅れて溢れ出す

「ハジメ君にか、本…望…かな」

直後、彼女の意識は途絶える
彼には珍しい行動だっただろう
心臓は確かに止まれば瞬時に意識が無くなるが
刃物や銃弾で穿たれた程度では、秒に限れど生きて行動が起こせる
そこで反撃を食らうかも知れなければ、情報を拡散されるかも知れない

首から上、それが基本だ
全ての行動命令は脳から首を伝って全身に行くのだ
首が切断されれば身体は動かないし、頭が壊れれば身体は動かない
徹底したまでの抵抗阻止、音も無しに起こす

暗殺の定義は、
政治や宗教 実利的な理由により密かに計画·立案し不意を狙い実行する殺人行為
『謀殺』とも呼ばれるそれは、時に大胆である

別に、大統領などに爆弾を体に巻き付けて吶喊し自爆するのも暗殺だ
密かに計画し不意を狙って実行するという事には反していない
だが、彼らの基本的思想コンセプトは隠密

自らも、依頼人も 一切の情報を与えない
もはや警察組織に利用される彼らは犯罪者でも無い
唯の殺害特化の従順な犬とも言える

それほどまでに、徹底した情報統制と依頼人への安全配慮
その思想は、ある行動を生む

彼の首筋に駆ける刃
激しい血潮が舞い狂い、周囲を赤く染める

そう、完全な隠密任務において要人に姿が視認されれば
『死』しか道は残されない、依頼を達成しようと必ず死ぬ事を義務としている
中には奥歯に毒物を仕込む者さえ居る、何なら自ら拍動を停めれる者さえ存在する
常に死と隣合わせの彼らは、同時に自身の死も覚悟しなければならない

一瞬で消滅する彼の意識
だが、次には白い空間に浮遊していた

「死後の世界、いや違うな」

「正解、流石に勘が鋭いわね」

虚無の空間から1人の女が現れる
白い衣服に身を包み神聖な雰囲気を醸し出す

「…神か、俺に何の用だ」

「あら、ホントに聡明ね」

誰が突然現れた女を神と捉えるか
今、皆は幻想的ファンタジーな事を前提として様々な知識の応用から導き出しただろう
だが、こんな文さえ読む暇も無いのが彼ら暗殺一家だ
殺しの鍛錬、これが最も重きを置かれているのは当然だ

「今、神に空枠が有ってね 地球から1人賢い子を選ぼうって話してたの」

「ほう、俺に神になれと?」

「そうね、でも神の力には慣れが必要なの
だから与えて、下界に降りてもらって慣れてもらおうかなと思ってるの」

「何故、下界に降りる?」

「神界は干渉に対しての抵抗力が強くてねぇ、慣れる環境には適してないの」

「…記憶に情報を入れれないか?」

「出来るわよ」

「ならそうしてくれ、依頼は受ける」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

そこで彼の意識は、再度 途絶えた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...