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22話 飾りでももう少し見栄えがあれば
22話 飾りでももう少し見栄えがあれば
王城西翼の回廊は、午後になると不思議と人通りが少なくなる。
王や王妃の公的な動線から少し外れ、けれど完全に閉ざされた場所でもない。文官たちが資料を運び、侍従が足早に行き交い、ときおり王族の誰かが人目を避けて思考を整理するために使う――そんな半端な位置にある。
半端であるがゆえに、案外落ち着く。
その日、ナタリア・アイゼンシュタインは、王妃からの呼び出しを終えた帰りに、たまたまその回廊を通っていた。
王妃との話は、重くはあったが無駄ではなかった。最近の王宮内の空気、南方使節との件の後処理、そしてクラウディオ周辺の綻びについて――王妃はかなり慎重に言葉を選んでいたが、それでも“もはや無視できない”という認識は隠しきれていなかった。
もちろん、だからといってナタリアが手を貸す義務はない。
ただ、知っておくべきことを知った、というだけだ。
回廊の途中で、ナタリアはふと足を止めた。
窓辺に、見覚えのある黒髪の男が立っている。
「ごきげんよう、殿下」
声をかけると、カイルヴェルト・ローゼンハイムが振り返った。
「ごきげんよう、ナタリア嬢」
その口元には、いつもの少し意地の悪い微笑みがある。
「母上からお帰りですか」
「ええ」
「ずいぶん面倒なお顔をなさっています」
ナタリアは眉をひそめる。
「失礼ですこと」
「褒めています」
「それ、もう便利な逃げ口上になっていてよ」
カイルヴェルトは小さく笑った。
ナタリアはそのまま数歩近づき、窓辺の反対側へ立つ。庭の木々が揺れていて、季節の変わり目の少し乾いた風がガラス越しに光を揺らしていた。
「殿下は?」
「兄上の執務室の空気があまりにも重かったので、少し逃げてきました」
「あら、正直」
「あなたには今さらでしょう」
「それもそうね」
ナタリアは欄干へ軽く指先を置いた。
少し沈黙が落ちる。
不思議と居心地は悪くない。カイルヴェルトといると、いつも少しだけ調子を乱されるが、同時に妙に息はしやすい。
「兄上は、今日は文官を二人ほど黙らせました」
カイルヴェルトが、世間話のような声音で言う。
「“今までならできていたこと”がなぜできないのか、と」
「まあ」
「その“今まで”を支えていたものが何だったのか、まだ正しく理解していないようです」
ナタリアは目を細めた。
「理解したくないのでしょうね」
「ええ」
「気づいてしまえば、ご自分が自然に立っていたわけではないと認めることになるもの」
「その通りです」
カイルヴェルトは素直に頷く。
「兄上にとって一番つらいのは、無能と断じられることではなく、“自分が立派に見えていたのは自分の力だけではなかった”と知ることかもしれません」
それは、確かにそうだろう。
クラウディオ・セイグランは、王太子として立派に見えること、自分が中心であること、自分が賞賛されることを当然のように欲しがってきた。そこへ“実は周囲が整えていた”と突きつけられれば、ただの失敗よりよほど堪えるはずだ。
「飾りでも」
ナタリアはふと、口元を少しだけ上げた。
「もう少し見栄えがあれば苦労しませんでしたのに」
言ってから、ほんの一瞬だけ間があく。
そしてカイルヴェルトが、肩を震わせるように笑った。
「それは、ずいぶん手厳しい」
「事実でしょう」
「ええ。否定はしません」
ナタリアも小さく笑う。
笑いながら、少しだけ自分で驚く。以前なら、クラウディオのことをこんなふうに誰かと冗談めかして口にすることなど考えられなかった。王太子の婚約者として、その未熟さを隠すのが役目だったからだ。
でも今は違う。
その役目は終わった。
終わったからこそ、言える。
「……本当に、昔のわたくしはよくやっていたと思うわ」
ぽつりと漏れた本音に、カイルヴェルトの笑みが少しだけやわらぐ。
「そうでしょうね」
「殿下までそんな素直に認めるの?」
「認めざるを得ないでしょう。兄上の周囲にあれだけの綻びが出ているのですから」
ナタリアは視線を庭へ戻した。
花の色は柔らかいのに、口にする話は少しも柔らかくない。けれど、それが妙にしっくりくる。
「母上は」
カイルヴェルトが静かに続ける。
「まだ兄上を見限ったわけではありません」
「でしょうね」
「ええ。ですが、最近は“何とかなる”ではなく、“何とかしなければならない”へ変わってきています」
ナタリアは頷く。
王妃の言葉の端にも、それはにじんでいた。
見ないふりの段階ではもうない。
だからこそ、自分のような“もう関係ないはずの人間”にまで、少しずつ話が届き始めているのだろう。
「それで」
ナタリアは横目でカイルヴェルトを見る。
「殿下は、何をどうするおつもりなの」
「兄上の尻拭いですか?」
「そこまで気前よく仰っていないわ」
「そうですね」
カイルヴェルトはわずかに首を傾けた。
「今のところは、崩れる場所を見極めている段階です」
「嫌な言い方ね」
「ええ。でも正しいでしょう?」
「正しいけれど、嫌ですわ」
その返しに、彼はまた笑う。
この男は本当によく笑う。もっとも、それは“好かれるための笑顔”ではない。面白いものを見つけたときの、かなり個人的な笑い方だ。
「兄上は」
カイルヴェルトが、少しだけ低い声で言う。
「たぶん、あなたが思っている以上に不機嫌です」
「そうでしょうね」
「しかも最近は、それをご自分でもうまく処理できていない」
「やはり飾りだったのね」
「ええ」
彼は、あっさり言った。
「ただの飾りなら、せめて場に応じて光り方を変えていただきたかったのですが」
今度はナタリアが吹き出しそうになる番だった。
「殿下も十分にお口が悪いわよ」
「あなたにだけは言われたくありません」
「何ですって?」
即座に返すと、カイルヴェルトは少しだけ目を細める。
「だって、あなたはご自分の口の悪さに自覚があるのに、私はまだ多少の品位を残しているつもりですから」
「その“多少”が信用ならないのよ」
「ひどい」
「事実ですわ」
二人の会話は、いつの間にか噛み合っていた。
噛み合いすぎていて、少し危険なくらいに。
ナタリアはふと、そのことに気づいて、ほんの少しだけ気持ちを引き締める。
この人と話していると楽なのだ。
でも、楽だからといって油断していい相手ではない。
それは忘れてはいけない。
「ナタリア嬢」
カイルヴェルトが、不意に少しだけ真面目な声になった。
「何かしら」
「あなたがいてくださると、兄上の現状を笑い話だけで終わらせずに済む気がします」
ナタリアは一瞬黙った。
またそういう言い方をする。
人の気を緩めさせるような、けれど逃がさない言い方を。
「それは」
ゆっくりと返す。
「わたくしが殿下の味方をしている、という意味ではなくて?」
「もちろん違います」
「言い切るのが早いわね」
「そこで迷うと、あなたはすぐ警戒を強めるでしょう」
その通りだった。
悔しいけれど。
「……本当に面倒な方」
「先日もそう言われました」
「何度でも言いますわ」
「嬉しいですね」
「だから褒めていないと」
ナタリアは呆れたように息をつく。
けれど、その息には棘ばかりではない。
「でも」
彼女は少しだけ言葉を選ぶ。
「兄君の現状を“ただ笑い話では終わらせたくない”という部分については、少しだけ分かりますわ」
カイルヴェルトの目が、ほんのわずかに和らぐ。
「少しだけ、ですか」
「ええ。そこを勘違いなさらないで」
「承知しています」
その返答がまたあまりにも素直で、ナタリアは少しだけ拍子抜けする。
もっとも、それもたぶん計算のうちなのだろうけれど。
回廊の先から、遠く侍従の足音が聞こえてくる。
そろそろ話を切り上げる頃合いだった。
「殿下」
「はい」
「一つだけ申し上げておくけれど」
「何でしょう」
「わたくしは、殿下が兄君よりましだからと言って、すぐに信用したりはしませんわよ」
カイルヴェルトは、それを聞いて本当に楽しそうに笑った。
「ええ。そこがあなたの良いところです」
「……そういうところですのよ」
「褒めています」
「聞き飽きましたわ」
ナタリアはそう言って、軽く一礼する。
「では、ごきげんよう」
「ごきげんよう、ナタリア嬢」
回廊を離れながら、ナタリアは少しだけ振り返りたい衝動を覚えた。
もちろん、しない。
そんなことをしたら、たぶんあの男は気づくだろうし、それがまた妙に面白がられるに決まっている。
だから、しない。
しないのだけれど。
歩きながら、ふと口元がわずかに緩んでいることに、自分で気づいてしまった。
「……困ったこと」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
飾りでも、もう少し見栄えがあれば。
そう笑った自分は、少しだけ昔より自由だった。
王城西翼の回廊は、午後になると不思議と人通りが少なくなる。
王や王妃の公的な動線から少し外れ、けれど完全に閉ざされた場所でもない。文官たちが資料を運び、侍従が足早に行き交い、ときおり王族の誰かが人目を避けて思考を整理するために使う――そんな半端な位置にある。
半端であるがゆえに、案外落ち着く。
その日、ナタリア・アイゼンシュタインは、王妃からの呼び出しを終えた帰りに、たまたまその回廊を通っていた。
王妃との話は、重くはあったが無駄ではなかった。最近の王宮内の空気、南方使節との件の後処理、そしてクラウディオ周辺の綻びについて――王妃はかなり慎重に言葉を選んでいたが、それでも“もはや無視できない”という認識は隠しきれていなかった。
もちろん、だからといってナタリアが手を貸す義務はない。
ただ、知っておくべきことを知った、というだけだ。
回廊の途中で、ナタリアはふと足を止めた。
窓辺に、見覚えのある黒髪の男が立っている。
「ごきげんよう、殿下」
声をかけると、カイルヴェルト・ローゼンハイムが振り返った。
「ごきげんよう、ナタリア嬢」
その口元には、いつもの少し意地の悪い微笑みがある。
「母上からお帰りですか」
「ええ」
「ずいぶん面倒なお顔をなさっています」
ナタリアは眉をひそめる。
「失礼ですこと」
「褒めています」
「それ、もう便利な逃げ口上になっていてよ」
カイルヴェルトは小さく笑った。
ナタリアはそのまま数歩近づき、窓辺の反対側へ立つ。庭の木々が揺れていて、季節の変わり目の少し乾いた風がガラス越しに光を揺らしていた。
「殿下は?」
「兄上の執務室の空気があまりにも重かったので、少し逃げてきました」
「あら、正直」
「あなたには今さらでしょう」
「それもそうね」
ナタリアは欄干へ軽く指先を置いた。
少し沈黙が落ちる。
不思議と居心地は悪くない。カイルヴェルトといると、いつも少しだけ調子を乱されるが、同時に妙に息はしやすい。
「兄上は、今日は文官を二人ほど黙らせました」
カイルヴェルトが、世間話のような声音で言う。
「“今までならできていたこと”がなぜできないのか、と」
「まあ」
「その“今まで”を支えていたものが何だったのか、まだ正しく理解していないようです」
ナタリアは目を細めた。
「理解したくないのでしょうね」
「ええ」
「気づいてしまえば、ご自分が自然に立っていたわけではないと認めることになるもの」
「その通りです」
カイルヴェルトは素直に頷く。
「兄上にとって一番つらいのは、無能と断じられることではなく、“自分が立派に見えていたのは自分の力だけではなかった”と知ることかもしれません」
それは、確かにそうだろう。
クラウディオ・セイグランは、王太子として立派に見えること、自分が中心であること、自分が賞賛されることを当然のように欲しがってきた。そこへ“実は周囲が整えていた”と突きつけられれば、ただの失敗よりよほど堪えるはずだ。
「飾りでも」
ナタリアはふと、口元を少しだけ上げた。
「もう少し見栄えがあれば苦労しませんでしたのに」
言ってから、ほんの一瞬だけ間があく。
そしてカイルヴェルトが、肩を震わせるように笑った。
「それは、ずいぶん手厳しい」
「事実でしょう」
「ええ。否定はしません」
ナタリアも小さく笑う。
笑いながら、少しだけ自分で驚く。以前なら、クラウディオのことをこんなふうに誰かと冗談めかして口にすることなど考えられなかった。王太子の婚約者として、その未熟さを隠すのが役目だったからだ。
でも今は違う。
その役目は終わった。
終わったからこそ、言える。
「……本当に、昔のわたくしはよくやっていたと思うわ」
ぽつりと漏れた本音に、カイルヴェルトの笑みが少しだけやわらぐ。
「そうでしょうね」
「殿下までそんな素直に認めるの?」
「認めざるを得ないでしょう。兄上の周囲にあれだけの綻びが出ているのですから」
ナタリアは視線を庭へ戻した。
花の色は柔らかいのに、口にする話は少しも柔らかくない。けれど、それが妙にしっくりくる。
「母上は」
カイルヴェルトが静かに続ける。
「まだ兄上を見限ったわけではありません」
「でしょうね」
「ええ。ですが、最近は“何とかなる”ではなく、“何とかしなければならない”へ変わってきています」
ナタリアは頷く。
王妃の言葉の端にも、それはにじんでいた。
見ないふりの段階ではもうない。
だからこそ、自分のような“もう関係ないはずの人間”にまで、少しずつ話が届き始めているのだろう。
「それで」
ナタリアは横目でカイルヴェルトを見る。
「殿下は、何をどうするおつもりなの」
「兄上の尻拭いですか?」
「そこまで気前よく仰っていないわ」
「そうですね」
カイルヴェルトはわずかに首を傾けた。
「今のところは、崩れる場所を見極めている段階です」
「嫌な言い方ね」
「ええ。でも正しいでしょう?」
「正しいけれど、嫌ですわ」
その返しに、彼はまた笑う。
この男は本当によく笑う。もっとも、それは“好かれるための笑顔”ではない。面白いものを見つけたときの、かなり個人的な笑い方だ。
「兄上は」
カイルヴェルトが、少しだけ低い声で言う。
「たぶん、あなたが思っている以上に不機嫌です」
「そうでしょうね」
「しかも最近は、それをご自分でもうまく処理できていない」
「やはり飾りだったのね」
「ええ」
彼は、あっさり言った。
「ただの飾りなら、せめて場に応じて光り方を変えていただきたかったのですが」
今度はナタリアが吹き出しそうになる番だった。
「殿下も十分にお口が悪いわよ」
「あなたにだけは言われたくありません」
「何ですって?」
即座に返すと、カイルヴェルトは少しだけ目を細める。
「だって、あなたはご自分の口の悪さに自覚があるのに、私はまだ多少の品位を残しているつもりですから」
「その“多少”が信用ならないのよ」
「ひどい」
「事実ですわ」
二人の会話は、いつの間にか噛み合っていた。
噛み合いすぎていて、少し危険なくらいに。
ナタリアはふと、そのことに気づいて、ほんの少しだけ気持ちを引き締める。
この人と話していると楽なのだ。
でも、楽だからといって油断していい相手ではない。
それは忘れてはいけない。
「ナタリア嬢」
カイルヴェルトが、不意に少しだけ真面目な声になった。
「何かしら」
「あなたがいてくださると、兄上の現状を笑い話だけで終わらせずに済む気がします」
ナタリアは一瞬黙った。
またそういう言い方をする。
人の気を緩めさせるような、けれど逃がさない言い方を。
「それは」
ゆっくりと返す。
「わたくしが殿下の味方をしている、という意味ではなくて?」
「もちろん違います」
「言い切るのが早いわね」
「そこで迷うと、あなたはすぐ警戒を強めるでしょう」
その通りだった。
悔しいけれど。
「……本当に面倒な方」
「先日もそう言われました」
「何度でも言いますわ」
「嬉しいですね」
「だから褒めていないと」
ナタリアは呆れたように息をつく。
けれど、その息には棘ばかりではない。
「でも」
彼女は少しだけ言葉を選ぶ。
「兄君の現状を“ただ笑い話では終わらせたくない”という部分については、少しだけ分かりますわ」
カイルヴェルトの目が、ほんのわずかに和らぐ。
「少しだけ、ですか」
「ええ。そこを勘違いなさらないで」
「承知しています」
その返答がまたあまりにも素直で、ナタリアは少しだけ拍子抜けする。
もっとも、それもたぶん計算のうちなのだろうけれど。
回廊の先から、遠く侍従の足音が聞こえてくる。
そろそろ話を切り上げる頃合いだった。
「殿下」
「はい」
「一つだけ申し上げておくけれど」
「何でしょう」
「わたくしは、殿下が兄君よりましだからと言って、すぐに信用したりはしませんわよ」
カイルヴェルトは、それを聞いて本当に楽しそうに笑った。
「ええ。そこがあなたの良いところです」
「……そういうところですのよ」
「褒めています」
「聞き飽きましたわ」
ナタリアはそう言って、軽く一礼する。
「では、ごきげんよう」
「ごきげんよう、ナタリア嬢」
回廊を離れながら、ナタリアは少しだけ振り返りたい衝動を覚えた。
もちろん、しない。
そんなことをしたら、たぶんあの男は気づくだろうし、それがまた妙に面白がられるに決まっている。
だから、しない。
しないのだけれど。
歩きながら、ふと口元がわずかに緩んでいることに、自分で気づいてしまった。
「……困ったこと」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
飾りでも、もう少し見栄えがあれば。
そう笑った自分は、少しだけ昔より自由だった。
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