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第6章 二人の愛と少年の嘆き

83時間目 憂鬱の起床と従妹の怒涛

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ふあぁ……。ねみぃ。
俺は、母さんのデカイ声に叩き起こされた。
休日なのに勘弁してほしい。
今日は小春こはると遊びに行くんだ。
それまでゆっくり寝かせてくれ……。
スマホを確認すると、従妹である坂井さかい南から、電話が何件もかかっていた。
なんだよ、なにかあったのか?
こんな朝っぱらから電話かけやがって。
俺は、心の中で悪態をつきながら、南に電話をかけようとする。
だが、俺が南の連絡先をタップするのと同時に向こうからかかってきた。
おい、ちょっと待て。
俺は、2コール目で電話に出ると、
『このアホにいがー!』
大音量で叫ばれた。
耳がキーンと鳴った。
いや、結構痛い。
「おい、マジでちょっと待て。そんなに叫ぶな。近所迷惑が」
『ハァァン!? なに言っとんねん! あつにい! 今日、ウチが誕生日やって言うこと忘れとるやろ! 中3の頃は受験やったからまだエエわ。でも、高一になって夏ひゃくぱー、暇やったやろうが、今年こそウチの誕生日プレゼントとパーティー開いてもらうからな!』
怒涛の勢いで南は、叫ぶように言う。

基本的に俺は、親戚の誕生日は祝うようにしている。
昔は、シャーペンや鞄、スキンケア用品など色々な物を送っていたが、年が大きくなるにつれて、それも少なくなっていった。
中学の頃は野球で忙しかったし、受験もあって勉強に追われていた日々が続いたから、誰かの誕生日プレゼントを選ぶ余裕などなかった。
だが、南の言葉には間違いがある。
「お前なぁ、高一の夏は忙しかったぞ。基本バイト尽くしだったし、小春と再会もしたからそれどころじゃなかったしな。まぁ、今年はなんか送るわ」
『はぁ……。あつにい、マジで大丈夫なん? ウチ、今あつにいの地元に居るんやけど』
「は?」
口から変な声が漏れる。
なんで来てるんだよ。
『あ、もうすぐ家着くわ。会って話そうや』
「あっ、おい、ちょっと──」
南は、俺が言い切る前に切りやがった。
アイツ、許すまじ。
「母さん、南来るの?」
たまたま洗濯物を干すべく部屋の前を通りかかった母さんに聞く。
「あれ、敦志あつしに言ってなかったか。南ちゃん、『今年こそあつにいに誕生日プレゼント貰うねん!』とか言ってお祖母さんに送ってもらってたらしいな。あの人、孫娘だからって甘やかしすぎだろ……」
母さんは苦笑しながら、言う。
南は、両親が仕事で忙しく、放任されて過ごしてきた。
それを知って激怒したばあちゃんが南を実の娘のように大事にしていたらしい。
それで、今もなにかあったらばあちゃんに泣きついたりしているのだろう。
「母さん、俺、小春と遊びに行くんだけど南どうしたらいい?」
「あたしももうすぐ仕事だからなぁ。南ちゃん、一人で家に居させるわけにも行かないし、デートなら悪いけど、南ちゃんの誕生日プレゼント探しに付き合ってやったらどうだ?」
別にデートじゃないからよかったが、小春がどう思うかだろう。
南と小春が文化祭で出会った時は、俺たちはまだ付き合っていなかった。
だから、南がいても邪魔にはならなかったが、今は違う。
俺たちは恋人で二人だけの時間を大事にしないといけない。
「小春にも言ってみるよ」
「すまねぇな。あ、そうだ。出来れば家に長居するのだけはやめてくれよ? あんたの部屋、匂うかも知らないからな」
だから、息子の前で堂々とそんな事を言うなと俺は、苦笑した。

──

ピンポーンとインターホンが鳴った。
そこには南が映っていて、本当に来たのかと思った。
「はいはい、今行く」
俺は、階段を降りながら、考える。
こいつの誕生日プレゼント、何が喜ぶんだろうな。
俺は、頭を回転させつつ、玄関のドアを開けた。
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