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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

103・8時間目 音楽に魅了された男たち

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「へぇ、今の学生バンドって凄いなぁ。プロと大差ないんじゃないか?」

 僕こと百合はくごう橙太とうたは、先ほど行ったライブのすごさに驚きを隠せないでいた。

「アァ。アイツ、敦志の後輩なんだよ。ギター弾いてたヤツだ。スゲェ努力して難しい曲弾いてるから本当に努力は報われるってヤツを信じてるンだろうな。嫌いじゃねェ。ああいうのは」

 睡蓮すいれんが人を誉めるなんて珍しいと思いながら、僕はへぇと相づちをうっていた。

 正直、ここに来たときは心結みゆうが来ないかハラハラしていたけど、来たのは睡蓮の家に住んでいる女郎めろう舞花まいかという女の子と僕もそれなりに親睦があった白咲しらさきちゃんや桃花とうか君しか来なかった。

 三人も近くにいて、すごかったと感想を言い合っている。

「よし、そろそろ敦志たちの所に行くか。三人とも、行くぞ」

 睡蓮が女郎ちゃんたちを呼んで僕らと同じバイト先の高校生だという高橋たかはし敦志という少年の所に行くという。

 僕もついていき、久しぶりに見た学校特有のリノリウムの廊下や大学受験の掲示板などを横目に階段を上っていた。

「敦志君! さ! 行くよ!」

「ちょっ……! 小春! わりぃ二人とも戻ってスマホ取ってくる! そろそろ黒沢くろさわセンパイたちが来る時間なんだよ……」

「分かった。僕らは先に体育館に行っておくよ。後で立ち会おう!」

「じゃあな! 遅れたらダメだぞ!」

「わぁってるよ」

 男子三人と女子一人の会話が聞こえて、僕はなんて都合がいいんだろうと思った。

 敦志君と高橋君を名前で呼んでいる子は女郎ちゃんがライブ前に話していた彼女なのだろうか。

 そして、睡蓮のことを黒沢センパイと呼ぶのは一人しかいないと、睡蓮は言っていた。

「よォ、敦志。奇遇だな。俺たちも今からお前に会おうとしたところだ」

 睡蓮が物理的な上から目線な言い方で高橋君に挨拶をした。

「く、黒沢センパイ!? それに薔薇しょくびさんに白咲さんも! あと──」

 高橋君が僕か女郎ちゃんの名前を呼ぼうとしたとき、隣にいたショートカットの女子が先に名前を呼んだ。

「あっ! 舞花ちゃーん! 久しぶり!」

「久しぶりだよぉ! 小春ちゃん!」

 女郎ちゃんは気のおけない友人と再会したときのような声で高橋君の彼女──小春ちゃんと話をしていた。

 二人は和気藹々あいあいと楽しそうに話していた。

 白咲ちゃんが「敦志! 久しぶりなのー!」と言い、桃花君が「ひ、久しぶり。そ、そのぉ……」ともじもじしながらも、嬉しそうに挨拶をしていた。

「黒沢センパイ、えっと、そちらの方は?」

 高橋君が僕に目を向けた。切れ長の鋭い目付きは見る人によっては不快な印象を与えるが、僕は違った。

 事前に睡蓮から聞かされていた話が今全てが重なって納得したから。

「僕は、橙太といいます。百合橙太です」

 僕は彼にペコリと会釈をした。

 やっぱり僕はここでも思うんだ。高橋敦志──君はすごいなと。
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