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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

104・3時間目 恋の後悔

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 橙太。

 ここに、橙太がいる。

 すぐに会える距離に、彼が。

 でも──

『さようなら、心結』

 いや、あの時と違うでしょ。

 中学校の頃の橙太はもう居ない。

 私たちは、大人になった。それぞれの想いは変わっているのかもしれないけど、今いるのは全ての感情を失った橙太だ。あの日、バイトの帰りに再会した彼。私はどうすれば。

「……そういえば、神谷さんってもしあの時こうしていれば……みたいなことを思ったことはありますか?」

 小春ちゃんは私の心中を見透かしたような質問をしてきたから少し驚いた。

 もしかして、橙太のことを考えていたことが顔にでているのかしら。

「……そりゃ、あるわよ。人生酸いも甘いも経験してるからね。突然、こんなこと聞いてどうしたの?」

 単純に疑問だったのもあるわ。彼女はミステリアスな感じはない。あるのはとにかく可愛いだけ。敦志君が溺愛するのもちょっと分かる。守ってあげたくなるわ。

「いいえ。その、敦志君が仲がいい後輩がなにか暗い過去を抱えている助けになりたいって言っていたので……。ふとそれを思い出しただけです」

 高橋君に後輩が出来たのね。どんなの子か気になるけど小春ちゃんもよくわからなさそうだし、そこはスルーね。

 それにしても……。どう答えましょ。

「昔ね、付き合っていた彼と別れた話だけどね……」

 ここからは暗い話になると前置きを挟んでから私は話した。

 小春ちゃんは律儀だ。歩いたまま聞いておけばいいのに、立ち止まってくれる。ちゃんと話を聞いてくれる子はお姉さん好きよ。

「お互い両想いだったけど、恋愛なんてこんなものでしょと私が心の中で決めつけていたから、進展があったかもしれない日常を壊してしまった。そしてついに音信不通で消え去るようになくなったわ」

 あぁ、何度思い出しても辛いわね。時間が経てば記憶からなくなると思ったけどそんなことなんてないわ。

 きっと、後悔があるから、私は前に進めない。後悔がなければ、きっと、忘れてしまう。新しい恋をしたいと口では言うけど、心の中は橙太との想い出を味わっているだけ。記憶だけが頼りの味のないガムを噛んでるみたいに無意味な日々を送るだけ。

「……そんなことがあったんですね」

 小春ちゃんは自分に素直だ。楽しいと思えば笑うし悲しいと思えば暗い顔をする。

 それに比べて私は、能天気にへらへらと笑っているだけ。身体だけは大きくなって知識を詰め込んだとしても、恋心は変わらない。

「……恋って難しいなぁ」

 うれいに満ちた表情で小春ちゃんは言う。もしかして彼女らは──

「小春ちゃん」

 私は思考をとめて、思ったことを口に出すことにした。手加減はいらない。

「無理しないでね」

 恋で後悔をするのは、私一人で充分。

 恋愛のプロフェッショナルと呼ばれた私に解決できない悩みなんてないもの。

「……いきましょうか」

 私と小春ちゃんは、それぞれの思いを胸に繋がる一歩を踏み出した。
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