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第2章【交わる二人の歯車】

16罪‬ 好きな人は大好きな友達の恋人でした⑪

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「おまたせ、真兄」
「……どう、した?」
「え? なにが?」

 部屋から出て真兄を見上げ、問われた言葉に私は本当に何のことか分からなくて首を傾げた。その様子を見て、真兄は少しだけ言いにくそうに口ごもっていて、余計に私の脳裏にはクエスチョンマークが羅列された。

「真兄?」
「あー……いや、目が、腫れてるから……」

 言いにくそうに告げる真兄の言葉に、私はハッとなって両手で顔を覆い隠した。大泣きしたんだ、目が腫れててもおかしくはない。その事になんで気付かなかったのかと、私は自分を心の中で責めた。だけど、今責めた所でどうすることもできず、私はバツの悪そうな表情を浮かべて真兄を指の隙間から見つめた。

「そ、そんなに酷い顔してる……?」
「ああ。凄い腫れてる……冷やした方がいいんじゃないか?」

 真兄に事情は話せない。静を好きで大切に思っている真兄に、静とヴェル君が両想いで付き合ってるなんて……そんな酷な話、するわけにはいかないと思った。こんな辛い思いは、私一人がすればそれでいいんだと思ったからこそ、私は目が腫れている原因の話には触れないように、そんな風に問いかえした。

「んー……白卯にお願いして、氷でも持ってきてもらった方がいいかな……」
「もらえるなら貰った方がいいだろう。俺が言ってきてやろうか?」
「え、いいの?」
「その顔のまま外に出たくないだろう?」
「う……それは、その、ごもっともです……」

 たはー、と情けない表情を浮かべて真兄の言葉を肯定した。確かに、真兄が酷いと言い切る顔を見せれば、おそらく静もヴェル君も私が大泣きしていたことを勘付くだろう。それはなんというか、避けたいというか、昨日の直後にこんな情けない姿を見せたくなかった。空元気だとしても、気丈な姿を見せておきたかった。

「待ってろ」
「……ありがとう。ごめんね、真兄」
「気にするな」

 短いやり取りののち、真兄は私の部屋を後にした。また私は部屋でひとりぼっちになった。
 ぼふっと、勢いよく布団の上に仰向けに倒れこむと、見慣れない天井を見上げた。このちょっとした時間も、静とヴェル君は一緒にいるのかなと、ほんの少しでも考えてしまい、私はその考えを消そうとするように頭をブンブンと振った。
 そんな事を考えていれば、自分が余計に傷つくだけなのは分かりきっていた。だからこそ、考えないようにした方がいいという事もよくわかった。だけど、心と頭はイコールされない。考えたくないのに、何もすることがないと嫌な事ばかり考えてしまう。

「……はぁ」

 何か楽しい事を考えないと、と思いながらも、考えてしまうのはあの二人の事。私自身、分かっていながら考えてしまう自分自身を“馬鹿だなぁ”と思う。だけど、思考は止まらない。まるで呪いみたいに、考えずにはいられない。
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